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中1の秋~ 噂になってる!

後夜祭の帰り道、

ボクたちは丘の上の公園でいろいろ話した。


夜空には星が輝いて、眼下には街のあかりが見える。

ボクたちしかいない公園、ボクたちだけを包む暗闇と差し込む星明り。


そしてボクには聞こえていた、地球の回る音。

ボクはこの瞬間(とき)をいつまでも忘れないだろう、と思った。


しばらく話して、そろそろ帰ろうとなった時、

「ずっとこのままならいいのに」

とあすかがつぶやいた。


「また集まればいいよ」

陸が言う。


ボクも、またこのみんなで話がしたいと思った。

5人のうち、2組が兄弟というのもなんだか身内の集まりみたいな気はしたけど。


学園祭が終わると、もう大きなイベントはない。

高3はいよいと受験モードに入り、年が明けるともう登校もしない。


そもそも、学園祭も運営などに高3は参加していない。

唯一、後夜祭だけは後輩たちをねぎらうために有志が参加するそうだ。


学園祭の後、片付け日というのがあり、

中1は「張り切って」この役目を請け負うことになっており、

ボクも朝早くから学校へ行った。


学校に着くやいなや、待ち構えていた吹奏楽部の高3の先輩たちに、

囲まれた。

「おお、女子とユニットで歌っちゃう渡辺くん」

そういいながら肩を組まれる。


「きみー 後夜祭で女子をお連れなんて、かっこええやん」

そういいながら、とこへ向かうのか歩かされている。

校舎の裏にでも連れていかれて、ぼこぼこに、ということが頭をよぎったが、

ボクの学校にはいわゆる、不良というタイプの生徒はいない、はずだ。


「けいたくーん、僕は後夜祭、行ってないんだけどさ、A女の服部あすかと一緒だったんだって?」

吹奏楽部の元部長だ。

他にも数人、にやにやしながら、ボクを取り囲む。


「なんで、おまえがあすかさんと知り合いなんだよ、なんで、お前があすかさんと一緒に後夜祭いたんだよ」

みな口々にこと様な事を言っていた。

「それに、もうひとり、片桐と一緒にいた子は誰だ」

「お前たち、女子をお連れするなんて、3年早いぞ、高校まで待て」


先輩たちには悪意はないようだったが、興味深々だった。

「あすかはボクの幼馴染。片桐と一緒にいたのはボクの姉、それから片桐の兄さんも一緒だった」

ボクは先輩たちに伝えた。


先輩たちは、そうなんだ、というのと、なんだよ羨ましい、というのが入り混じったような表情だった。


ボクがあすかとステージにコラボしたこと、ボクと片桐が後夜祭で女子と一緒だったこと、

そんなにたいそうな事?

と思ったが、想像以上に噂になっていた。


その後、ボクたち中1はお片付け要員として、かいがいしく働いた。

でも、ボクと片桐はなぜだか周囲からの視線を感じていた。

羨望と少しの嫉妬が交差するような。


同じ中1の奴らからは、どうやったら女子を後夜祭に誘えるのか聞かれ、

上級生たちからは、あの女子を俺たちにも紹介しろ、とささやかれた。


片桐はそんな周囲に、

「お前ら、来年は頑張れ。年上の女子はいいぞー」

と自慢げに言っていた。


年上の女子ってまいかのこと?

まいかもこういうところだと、一緒に歩くと羨望のまなざしで見られる女子なんだ。

不思議な気分だった。


「大騒ぎだな、女子と後夜祭で歌っただけなのに。噂がすごいぞ」

片桐がボクに話しかけてきた。


あの偶然、あすかとコラボになったステージ、

小学校の入学式を思い出した。


あの時も、一人だったボクを見つけてくれた。

あの時、つないだ手の感触を今でも覚えている、そう感じた。


そんなボクを見て、

「お前さ、あすかのこと、好きだったの?」

片桐が聞いた。

「だった?」

過去形で聞いてきた。


「今はけいたに好きな人はいないと思う」

そう続ける。


あすか、ボクの初恋のひと。

片桐には話してもいいかな、と思ったけど、まだこれは自分だけにしまっておきたい

想いだった。


今好きな人はいない、そうかもしれない。

あすかのことも、今ではいい友達だ。

もう胸がぎゅんとなることもない。


でも、あの小学生の頃のことを思うと、そのころのボクのことが

懐かしくていとおしい、その思いで心がざわっとした。


あの時、この時間からもう離れていくばかりだとおもった時から

何年が経ったんだろう。


あの時間には戻れない、離れるばかりだ。


秋風の吹く今は感じるはずがない、

あの頃の春の桜と新緑に匂いが漂ったような気がした。




中1が女子を連れて学園祭、これは上級生からみたらなんだこいつら、ですよね。

応援していただけると感激します。

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