中1の秋~ それぞれの進路
あすかとボクの学園祭でのステージが終わった。
ステージを降りてからも、すれ違う人の視線を感じる。
片桐海も戻ってきていた。目が少し腫れて充血していたが、大事には至らなかったようだ。
「すごいじゃん、女の子と二人ユニットって」
とボクたちを出迎えた。
学園祭は夕方には終了したが、そのあと後夜祭となる。
ボクと海はもちろん、あすかとまいか、陸も後夜祭に参加してくれるという。
ボクとあすか、海とまいか、少し離れて陸。
そんな感じで並んでいた。
ボクたちはさっきのステージでのハプニング、はらはらしたボクのサックス演奏、
あすかの歌、そんなことをしゃべっていた。
後夜祭では学園祭での出し物の人気投票の結果発表が行われた。
高校生の有志がやった演劇が1位で、男子の作るおしるこ屋が2位だった。
そして、
「今回の特別賞、ライブステージでハプニングに飛び入り参加してくれた、
そこの女子とついでにサックス奏者」
と司会の運営委員からボクとあすかが呼ばれた。
ボクとあすかは集まったみんなの前で、「特別賞」としてボクの学校の
紙袋をもらった。
「じゃ、何か一言」
あすかがマイクを向けられる。
見ていた生徒たちがざわめいた。
「A女子学園の服部あすかだ」
あすかはボクの学校の生徒たちの間でも有名なようだ。
予備校の講習で彼女を見た奴らからA女学園のヒロインと呼ばれているそうだ。
A女学園の学園祭に行きたくて、なんとか招待してもうらおうと
手を尽くしている奴も多いと聞いた。
女子校の学園祭は男子が単独で行っても中にははいれないらしい。
あすかってそんなに人気者なんだ。
ボクたち男子校の学園祭では、女子と一緒にいる、ということが特別な事となるらしい。
特に、後夜祭に女子を連れて参加する、ということは特に特別なようだ。
ボクたちは男子二人、女子二人で一緒にいる。
これはすごいことなのだ。
しかも、中1の分際で。
女子の一人は男子校では名の知れた女子高生だ。
さっきから周囲の視線が痛かったが、そういうことだったのだ。
海は「どうだ」といわんばかりに誇らしげに、まいかと話している。
周囲の何だよ、こいつらというのと、うらやましいなあもう、というのとが
入りまじった視線をバシバシ感じていた。
ボクたちはとても目立つことをしてしまったようだ。
後夜祭が終わり、ボクたちは帰路についた。
男子二人、女子二人、少し離れてもう一人男子、いや男。
帰り道、あすかが言った
「歌うのって楽しい。これからも歌っていきたい」
「じゃプロになるの?」
ボクが聞く。
「プロになるって簡単じゃないよ。でも大学の4年間は、歌にかけてみる
だから、大学は卒業できればいい」
どういう意味なんだろう。
ボクには意味が分からなかった。
「じゃ、一般入試はしないの?」
陸が言った。
「うん、推薦か先行入試で早めに進路を決める」
ボクの学校はある意味進学校だったので、大学入試のいろいろな選択肢は知っていた。
かつては医学部を狙っていたあすかのこの選択は意外だった。
「ま、私にとって大学は隠れ蓑ってことかな」
その時はあすかの家庭におきていたことも知らなかったボクは
よくわからず聞いていた。
「まいかは?高校、受験するんでしょ」
あすかがまいかに話を振った。
まいかの舞踊ができる高校への進学という意志は固く、
自分で候補を調べ、試験の準備をし、費用を調べて親に交渉した。
「学校で習わなくてもダンスは出来るけど、そういう学校もあるんだからそこに行きたい」
のだそうだ。
もう大学生の陸はこの先、専門分野に進んでいくのだそうだ。
大学、というのは研究機関であり学ぶというより研究をするところ、だそうだ。
ボクも化学に興味があったので、陸の話は参考になった。
それでも、今後の進路がかなり明確な3人と比べると、
ボクはまだまだ模索中だった。
父と同じ研究者になってみたい、という希望はぼんやりと持っていたけど。
海はというと
「俺はまず中学で遊び尽くす。高2まで遊ぶ。そこから猛勉して兄貴を超える」
その日の帰り道、ボクたちはずっと将来について話した。
なんだか楽しかった。
秋の夜空に澄んだ空気が流れていた。
小高い丘の上から街を見下ろしていると、「ゴーッ」と音が鳴っているように聞こえた。
これは地球が回る音だ。
いつか、父が話してくれた、若いときにだけ聞こえる
地球が回る音
ボクにもこの音が聞こえた。
大学進学にしてもいろいろな選択肢があります。
悩むところですね。
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