表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/24

中1の初夏~ 後がない

期末テストの範囲が出そろった頃、

ボクは片桐海の兄に会った。


片桐陸、20歳。

大学2年生だそうだ。


片桐の家で陸に試験対策を指南してもらう。


陸はボクのノートなど見ながら、いろいろと教えてくれた。

とてもわかりやすい。


「けいたくんは、なんで勉強するの?」

陸が聞いてきた。


「中間でしくったから期末で挽回しないと、部活辞めろっていわれる」

そう答えた。


「うちの兄貴、変ってるんだ」

風邪で学校を休んだ時、その日に出た宿題を友達が答えをうつさせてくれようとしたのに、

「勉強は自分でやらなきゃ、おもしろくない」

と言って断り、自力で済ませたのだそうだ。


そして苦手な科目に取り組むときには、脳みそに宣戦布告をするのだそうだ。

「いまから、たっぷり苦しめてやる、覚悟しろ」って。


勉強は自分でやらなきゃ楽しくない、という気持ちはいまいちわからないけど、

苦手な科目の脳みそへの宣戦布告、これはなんとなくわかる。


ボクだってやりたくない宿題に取り組む時はこんな気分だ。


陸はボクたちの学校の先輩でもあるそうだ。


陸と海でいろいろ楽しそうに話してる。

それを見ながら、兄貴っていいな、と思った。


ボクには姉のまいかしかいない。


姉には姉の良さがあるけど、でも男の兄弟っていうのに憧れる。


まいかとはすごく仲がいい訳でも、悪い訳でもない。

小学生の頃は一緒に留守番したりしていて話す機会も多かったけど、

最近はあまり話をしていない。


「けいたにはお姉ちゃんがいるんでしょ。いいな」

と海が言った。

ボクは兄貴がいるのがうらやましい、そう伝えると、

陸が

「お互い、ないものねだりだ」

と言った。


たわいもない話もしたけど、

ボクたちは真剣に試験勉強をした。

試験までの勉強計画なんかも作った。


「それで、期末でなんとか挽回したとるす。その後はどうする?」

陸が聞いてきた。


その先のことまでは考えていない。

ボクの前にあるのはただ期末テストのことだけだった。


返答に困っていると、

「秋には学園祭があるぞ」

学園祭、そういえば5年生と6年生のとき、見に行ったっけ。

模擬店があったり、出し物があったりしてすごく楽しかった。

ボクもこの学校に入りたい、そう思ったんだ。


「じゃ、期末でがっちり挽回して、学園祭でサックス演奏な」

と陸が言った。


「それ、いいな」

海も乗り気になった。


学園祭ではステージで演奏するグループがいくつもあるんだそうだ。

なんだか楽しそうだ、ボクもそんな気になった。


それから、試験まで毎日頑張って勉強した。

海はそんなに真剣にやっている様子がなかったけど。


そしてついに期末テストが始まった。


期末テストが終わると、学校は休みになる。

まだ7月の始めだけど、登校するのは答案返却日と終業式の日だけだった。


答案返却日、学校に着くともう来ていた海に

「やったな」

と肩をたたかれた。


成績の上位者は廊下にはり出される。

そこにボクの名前があった。

はり出されている中では最後だったけど。

陸はボクより上位になまえがあった。


でもこれでボクはサックスと部活を続けることができた。

試験休みのある日、サックスを抱えて駅前の音楽教室に行くと、

その道すがらであすかと会った。


あすかが小学校を卒業してからも、同じ街に住んでいるから、

時々、ばったり会ったりはしていた。

そのたび、一言二言話をした。

でもボクが中学に入ってからあすかに会うのは初めてかもしれない。


「あ、けいた、久しぶり」

そういいながらあすかはボクのサックスをちらりと見た。

「サックス、やってるの?」


「学校の吹奏楽部とここで習ってる。学園祭には演奏するんだよ」

ボクはすこし自慢げに言った。

「そっか、すごいね。見に行きたいな」

あすかが本気なのか社交辞令なのかわからない様子で言った。


「よかったら、見に来るといいよ。ボクたちバンドやるんだ」

おい、ボク、何を言っているんだ。

正直、サックスの演奏でさえ、人前で出来る腕前ではないのに。


あすかは少し笑いながら、

「でも受験生だからね。もし行けたらいくね」

そうか、あすかは高校3年生、もう大学受験だ。


いつのまにやら、あすかとボクはそんなに視線の高さが変わらなくなっていた。


もしかしたら、学園祭にあすかが来るかもしれない。

サックスの練習に明け暮れる夏休みは目の前だった。


けいたはやればできる子のようです。

根が真面目なのですよね。

応援していただけると感激します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ