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ボクの初恋のひと それぞれの青春  作者: 明けの明星


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また春が来た

あれから、何度も春が来た。


ボクの思うあれから、は「奇跡の日」が基準だ。

あれから、何度も桜の季節が過ぎていった。


あのあと、ボクたちが卒業した小学校にあすかの娘が入学した。


ボクにとってあのあと、とは「奇跡の日」の後だ。


まいかは相変わらず世界で活躍して多忙な日々を過ごしていた。

片桐兄弟は、それぞれ好きな道に進んでいる。


るるちゃんもあの後結婚し、今は男の子がいる。

その子は子役として時々テレビで見かける。るるちゃんはすっかりステージママだ。

るるちゃんは自分が果たせなかった夢を息子に託している。

ほどほどにしてくれればいいと大きなお世話ながら思ってしまった。


ボクは会社の同僚の愛子と結婚し、娘が生まれた。

娘の名は「あかね」。

愛子が名付けた。


ボクは毎日家族のために働き、働き、働く。

それがボクの義務だ。


ボクは世界に向かうような目標も、何かの頂点に立ちたい、という夢も持たなかった。

大学で好きな分野を学び、それが活かせる会社に就職し、今に至る。


これはきっとすごく平凡な人生だ。


人によってはそんなのつまらない、と思うかもしれない。

でもボクにとっては、かけがえのない家族ができたことだけで充分だ。

そして、その家族を全力で守っていく。こんな壮大な目標があるだろうか。


愛子が

「夜、3人で川の字になって寝てるじゃない、

真ん中が私で。

右を向いたらあなたがいて、左を見たらあかねがいる、

こんな幸せってないよね」

こう言っていた。

そう感じてもらえるのがうれしい。


今、ボクたちはかつておばあちゃんが住んでいた家をリフォームして暮らしている。

まあ、いろいろあって空き家にしておくなら誰かが住んだ方がいい、ということで

こうなっている。


娘のあかね小学校に入学する。

満開の桜に迎えられ、あかねは小学校の門をくぐる。

そうここはボクが卒業した学校だ。


ボクは保護者として体育館で保護者席に座り、新入生の入場を待っていた。

何年も前、ボクの入場を待っていた母の気持ちが少しわかった。


なかなか入ってこないので、ボクはこっそりと廊下に様子を見に行った。


ボクたちの頃と同じで、6年生が手を繋いでくれて入場する。

廊下に並んでいる1年生列を目で追うと、一番後ろにあかねがいた。

隣には誰もいない。


苗字が「わたなべ」だから名前順で並ぶと一番最後。

ボクの時と同じように、6年生の人数が足りないのだ。


このままだとあかねが一人で入場することになる、

たまらず、先生にそのことを伝えようとした時、


あかねが大きな声で

「せんせい、わたしのとなり、6年生がいません」

と訴えた。

ボクはホッとして保護者席に戻った。


予定時間より少し遅れて入学式が始まった。

体育館に入り口から、新入生が入場してくる。

1年1組の列の最後尾にあかねが6年生と手を繋いで歩いてきた。


手を繋いでくれている6年生は、

「あすか?」

とおもうほど、あすかに似た女の子だった。


式が終わり、あかねと一緒に家路についた。

「あかね、入場の時、隣に6年生がいない、ってよく先生に言えたね」

ボクがほめると、


「当たり前じゃない、先生に言わないと気付いてもらえそうになかったもん。

黙ってる子なんているの?」

逆に聞かれてしまった。


「気の弱い男の子なんかは言えなかったりするんだよ」

愛子が意味深に言ってくれた。


「私と手を繋いでくれたのはね、まりあちゃん。あかねのおっきいさんだよ」

あかねが嬉しそうに言う。


まりあ、そうだ、あすかの娘だ。

どうりで背格好も面立ちもあすかによく似ていた。


「まりあちゃん、とてもやさしくて大好き。

まりあちゃんみたいになりたいな」

帰り道、まりあちゃんの話で持ちきりだ。

ついさっきまで、あかねの憧れは「まいかおねえちゃん」だったのに。


「まりあちゃんのママってお医者さんになるんだって。

いま、すごくお勉強してるんだって。

だからまりあちゃんもお勉強がんばるんだって。あかねもがんばる」


そうか、あすか医学部に入ったんだ。

今年あたりで卒業かな。


あすかが家族を持ちながらも自分の道を進んでいる。

さすが、ボクの初恋のひとだ。


じゃあ、ボクも、と思ったがボクにはやはり何か大きな目標は思い浮かばなかった。

サックスの練習を再開して家族に聞かせたい、それくらいかな。


あかねを真ん中にして、愛子とボク、3人で手を繋いで歩いた。


ここであかねは大きくなる。

楽しいことたくさんあるといいな、そう思った。


風が吹き、桜の花びらが舞う。

ボクたちを包み込むように。


あのボクが小学1年生だった時、感じた新緑に匂いのする

春の風だった。


ー完ー



けいたの物語、これで完了です。

初めて物語を書き終えることができました。

応援していただけると感激します。

感想など聞かせてくださるとうれしいです。

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