奇跡の日
ボクが中学1年生の時から11年後の「奇跡の日」
ボクたちは再会した。
あすかのライブが終わり、観客もいなくなったコンコースで
ボクたちだけが残っていた。
ボクたちが、いやボクがみんなと疎遠になって6年くらい経っていた。
今この場に、あすか、片桐海と陸、るるちゃん、そしてボクがいる。
まいかがここにいないのは残念だけど仕方ない。
「みんな、きてくれたんだ。ていうか、今日の事覚えていたんだ」
あすかがボクたちに囲まれて言う。
「そりゃ、覚えてるでしょ。この日を割り出すの、苦労したんだから」
陸が言う。
陸は、ボクたちの誕生日やらなにんやら、かけたり割ったりいろいろやって
今日のこの日を導き出したんだ。
今日、みんなが揃ったのは、「今日」だったからなのかもしれない。
さっきからずっとあすかにまとわりついている子供が二人。
「あ、この子、私の子どもたち。長女のまりあ、長男の翔、かけるだよ」
名前、そのまんま付けたんだ。
というか、あすか結婚してたんだ。
皆が聞くより先に、あすかが言った。
「うちさ、私が大学卒業するころちょっと大変で、卒業して就職はしたんだけど、
逃げるように地方勤務を希望したの。
そこで、旦那と出会ったんだけだ、何の因果かこっちにもどってきちゃって。
このままずっとこっちで暮らすことになりそうなんだ」
あすかの旦那さんがこちらに向かって挨拶をする。
人の好さそうな、感じの良い人だ。
いつまでも立ち話もということで、
ボクたちは近くの居酒屋に移動した。
時間は遅くなっていたけど、今日だけはということであすかの子供たちも一緒だ。
居酒屋の座敷でボクたちは、いろいろと語り合った。
今までの事、これからの事。
まいかもネットで参加した。
「そういえば、さっき、ライブ終わってすぐの時、何か言いかけてたでしょ、何だったの?」
あすかがボクに聞いた。
そうだ、ボクはあすかに謝りたいと思っていたんだ。
あすかを守りたい、とか思っておきながら、何もできなかったって。
でも、いま幸せそうなあすかを見ていたら、このまま黙っていようと思った。
「え、何だったかな、忘れちゃったよ、その程度のことだよ、きっと」
そう答えた。
でも、
「またライブやるの?」
と聞いてみた。歌を続けていくのか知りたかった。
「うん、でもできる範囲でね。
だから、子守歌歌ってあげる程度かな。
子供たちが優先。それが一番幸せって思う」
そうだ、あすかには家族団らんってほとんどなかったんだ。
今、旦那さんと子供たちに囲まれているあすかはとてもいい笑顔だった。
ネットで参加していたまいかが、
「そういえばさ、けいたって小学生の頃、あすかのこと好きだったよね」
と言い出した。
とんでもないことを言ってくれる。
周囲がざわつく。
「え、何、何年生の頃だよ」
「1年生だよ、あすか、お世話係だったもん」
ボクが答えるより早く、まいかが言う。
「けいたが1年生の時あすかが6年生。
6年生を送る会で特別にお手紙とか渡してなかったっけ」
まだ言うか、まいかのやつ。
「お世話大変だったんだよ、けいたくん。入学式にひとりぼっちだし」
あすかまで、入学式での手つなぎ事件を語ってくれた。
「けいたの初恋のひと、だよね」
まいかが言う。
ボクは黙って酒を吞むしかなかった。
「あすかはその頃から、モテてたんだ。初恋の人だなんて光栄じゃないか」
あすかの旦那さんが言う。
側にいたあすかの子、翔が
「はつこいのひと、ってなに?」
と聞いてきた。
「初めて好きになった人ってこと」
すかさず、娘のまりあが答える。
「え、だめだよ、ままはぼくとぱぱのままだから、あ、おねえちゃんも」
翔ににらまれてしまった。
あすかは黙って、翔を抱きしめる。
すごくすごく愛おしそうに。
割ってはいってきた、まりあのことも抱きしめる。
この二人はあすかの宝物だ。
これからも、時々は集まろう、そして音信不通はやめようと
連絡先を交換しボクたちは別れた。
でも、それ以来、皆で集まる機会はなかった。
それから、何年かが経ち、
ボクはボクの卒業した小学校に来ていた。
ボクの側には一人の女性、同じ会社の同僚の愛子さんがいた。
ボクはこの人と結婚する。
今日はボクの実家に挨拶に来た。
その帰り道、ボクの思い出の場所を案内していたのだ。
桜が咲き、花びらがまい、新緑の香りがする。
今日は、入学式のようだ。
式を終え、帰り際に校門で記念写真を撮る親子が大勢いた。
ボクたちはその姿を微笑ましく眺めていた。
「すみません、シャッター押してもらえないでしょうか」
一人の男性に声をかけたれた。
振り返るとそこにはあすかの旦那さんが立っていた。
校門に並んでいたのは、あすかと子供たちだった。
ボクは喜んで数枚の写真を撮った。
「あすかの地元に家を買いまして、娘が母親の母校に通うことになりました」
旦那さんが言う。
前に会ったときより大きくなっていることもたち、
だけど、娘のまりあのランドセルは大きくて、
一年生の黄色い帽子はすこし大き目なのか目元ぎりぎりまで隠していた。
ボクはあすかたちに愛子を紹介して、
すこし立ち話をした。
子供たちが急かしてきたので、長くは話せなかったけど。
立ち去り際にあすかが、
「私、医学部に行こうと思ってるの。家から通える国立狙い。
難しいけど、がんばってみる」
そう言った。
その言葉にあすかの旦那さんもうなずく。
あすかの目標、頑張ってほしいと心から思った。
ボクと愛子の周囲を、春の風が通り抜けていた。
それはどこか懐かしく、心がすこしだけぎゅっとなる匂いがしていた。
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次回、最終話です。
あと1本で完了します。




