あれから
ボクが中学1年生だったとき、11年後にまた会おう。
と約束した日。
ボクと姉のまいか、当時同級生だった片桐海と兄の陸、そしてあすか、
その後でまいかの友達のるるちゃん。
その6人が片桐陸が探り出してきたその日に再会しようと
決めた「奇跡の日」が近づいてきていた。
あれから11年が経っていた。
あすかの大学最後のライブ依頼、ボクたちはなんとなく疎遠になっていた。
それぞれが自分のことで忙しく、自分の世界を広げていっていた時期だった。
ボクたちが使っていたグループメールのツールもいつしか時代遅れの
誰も使わない代物となっており、互いの連絡先すらわからないくなっていた。
ボクとまいかは姉弟だから、居場所くらいはわかるけど、
まいかはあの後、ダンスカンパニーの主要メンバーとして活躍し、
今ではダンサー兼振付家として世界中で活躍している。
ネットなんかでもよく見かける。
この前なんか、猫を飼ったとかニュースになっていた。
偉くなったもんだ。
片桐海は数年前、久しぶりに連絡しようとしてメールしたけど
届くことはなかった。
兄の陸は研究者としてやっているらしいけど、
詳しくはわからなかった。
るるちゃんは、まいかによると会社に勤めていて、
そろそろ結婚の話もあるらしい。
ボクはというと理系の大学に進学し今は大学院の修士2年になっていた。
就職先も決まり、最後の学生生活を謳歌していた。
そして、あすか。
あのライブの後、お母さんが亡くなり、お父さんが行方をくらましてしまった、
と聞いていた。
人づてにだいぶ前に、この地を離れてどこかの地方都市で働いていると聞いた。
あすかと話をしたのは、あのライブの後が最後になってしまった。
それからの年月もボクはあすかのことを探したりはしなかった。
あすかだけでなく、他の誰の事もわざわざ気にかけたりはしなかった。
あの奇跡の日まであとわずかだ。
ボクは #翔×マリア とネットで探してみた。
数件ヒットしたけど、それはかつてのあすかのライブの事だった。
もう誰もあの日の事を覚えていないのかもしれない。
そう考えると、もしかしたらもう二度と会えないかもしれない、
他のみんなの事が今更ながら気になった。
もっと前に探しておけばよかった。
あのあすかのライブの頃、あんなに避けたりしなければよかった。
ボクは後悔していた。
それ以降、ボクは頻繁に #翔×マリアとネットで探していた。
「奇跡の日」まであと1週間、となった頃、
#翔×マリア のタグが付いた書き込みが見つかった。
「XX月XX日、ライブやります。 思い出の場所で #翔×マリア」
あすか?
これはあすかだ。
思い出の場所、一緒に載せられていた画像は最後のライブをやった
あの駅前コンコースが映っていた。
ボクも自分が発信している、閲覧数一日平均数件の
SNSに #翔×マリア とタグをつけた。
それから、まいかを使って、なんとかみんなを探し出そうとした。
他のみんなとは、思いのほかあっさりと連絡がついた。
まいかが皆の居場所を知っていたのだ。
今までボクは本気で探そうともしていなくて、皆が会ってくれるか心配だったけど、
ネットを通してのやり取りは以前のまま気さくであの頃に戻ったようなきがした。
でもあすかだけは、誰とも連絡をとっていないらしい。
ボクたちは、奇跡の日のあすかのライブにサプライズで見に行くことにした。
「あすかからスルーされたらその時はその時、そこらへんで飲んで帰ろ」
と海が言う。
「奇跡の日」がやってきた。
ボクと、片桐陸、海 そしてるるちゃんと事前に落ち合った。
まいかは海外に在中のため、不参加だ。
久しぶりに会うみんなはそれなりに、大人になっていた。
「けいた、変らないね」
ボクは皆から口々にそういわれた。
陸は前から小太りでおっさん体形だったけど、ますます貫禄がついていた。
そして、海も。あんなに細かった海が陸と変わらない体形になっていた。
海は、高校大学と学びたかったロボット工学を専門に学ぶため
日本とアメリカの研究施設を往復していたのだそうだ。
そして、あと2年研究を続けるそうだ。
陸は、相変わらず研究者。
でも、大学に自分の研究室を持ち学会で論文んの発表もしている。
その分野では名が知られた存在らしい。
るるちゃんは、社会人2年目だとか。
休みには海外にも行ったりする今どきの会社員だ。
「女優はどうした」
海がからかった。
るるちゃんは女優になりたくて2年間ほど養成所に通ったが、何も進展はなかった。
「あそこで、身に着けたことは、電話の対応がちょっとうまくなったってだけかな」
と笑っていた。
駅近くのコンコースの片隅で、ライブが始まった。
うたっているのはあすかだ。
すっかり大人の女性だけど、あれはあすかだ。
歌声もしぐさもあのころのままだった。
前の最後のライブのときほどではないけど、
そこそこの観客が集まっていた。
ボクたちは隠れるわけでもなく、でも近づきすぎないようにあすかを見ていた。
あすかもこちらに気づいたようだった。
最後の曲、として始めたのは、
ボクの学校の学園祭の後夜祭で歌った曲だった。
ボクたちをみつけて急遽変えたらしい。
大勢の人たちの拍手と歓声のなか、ライブは終わった。
あすかはボクたちを見て、
「待っててね」
と言った。もちろん声は届かなかったけどそう口が動いていた。
観客も帰っていき、人けのなくなった広場に
あすかがいた。
ボクたちに駆け寄り、
「来てくれたんだ。今日の事覚えていてくれたんだ」
と言った。
ボクもほかのみんなも今日の事は誰も忘れていなかった。
必ず今日、みんなで会えると思っていた。
だから今まで疎遠でいてもそこまで気にしていなかったのかもしれない。
「ひさしぶりだね、あすか。ボクはあすかに、」
と言いかけた時、
背後から、子供の声がした。
「ママー お歌終わった?」
振り返ると、小さな女の子ともっと小さな男の子が立っていた。




