中1の春~ 新しい出会い
ボクは小学校を卒業して、中学生になった。
受験をして私立の男子校に進学した。
姉のまいかも中学受験をしたし、
ボクの両親に方針でもあったので、ボクも自然と高学年になるころから
塾に通っていた。
同じ小学校ではそのまま地元の公立中学に行く人もいれば、
ボクのように受験をした人もいた。
ボクが進学した学校は、父の母校でもあった。
ボクからするとチャレンジだったけど合格することができた。
ボクの合格を父は何より喜んだ。
それだからか、中学に進んだお祝いということで、
ボクは何か希望を聞いてもらえることになった。
ご褒美、と言われたけど、なんか受験のご褒美というのも変な気分だ。
自分のために勉強して受験したんだから。
両親は新しいスマホとかタブレットとかをねだってくる、と思っていたらしいが、
ボクがお願いしたのは、
「サックスを習わせてほしい」
ということだった。
中学ではいろいろな部活動があった。
小学校の頃の授業の時間でやったものとはまったく桁違いだった。
そんななかで、ボクは吹奏楽部に惹かれた。
入学式の日に校歌を演奏したりしている姿が印象的だった。
ボクには楽器をやった経験がない。
小さい頃、まいかといっしょにピアノを習ったけど、
たぶん、すぐにやめている。
そんボクでも演奏できるようになるんだろうか、
心配だったけど、部活動紹介のとき初めてでも大丈夫!
と何度も言われたので、ボクは吹奏楽部に入部することにした。
部活ではまずいろいろな楽器の説明があり、
一応、自分の希望する楽器をやることができるようだった。
そんな中でサックスを選んだのは、音がよかったこと。
それから、見学をしたときにサックスの先輩が吹いていたが、
小学校の音楽界であすかがソロをうたった曲だった。
ボクの学校の吹奏楽部は、コンクールで入賞したり、といった華やかな経歴は
ないようだった。
文化祭での演奏会や入学式、卒業式でも演奏が大きなイベントだそうだ。
サックスを希望した新入生はもう一人いた。
同じクラスの片桐海という奴だった。
片桐はサックスの経験者でかなりうまい。
先輩たちも一目置いているようだった。
ど素人のボクはちょっと肩身が狭い思いもしたけど、
片桐は自分の技量をひけらかすことはなく、
ボクは自分のペースでやってみようと思った。
それでも、少しでも早く上達したい。
そんな気持ちがあって、
サックスを習わせてもらえるように頼んだ。
駅前にボクが少しだけピアノを習っていた音楽教室があった。
そこでサックスも教えてくれるそうだ。
父がはりきって音楽教室への入会の手続きをしてくれた。
それから、楽器も買ってくれた。
思えば、続くかどうかもわからないのに、高額な楽器を買ってくれて、
音楽教室だって入会金や月謝、決して安くはなかったはずだ。
それほど父はボクが自分の母校に入学したことがうれしかったようだった。
母は部活だけで充分だと言い、勉強に支障がでないといいけど、と心配そうだった。
中学にも慣れてきた5月の終わり、
初めての定期試験があった。
中間テストというやつだ。
授業はおもしろく、ボクはいつも一生懸命に授業を受け、
家でも予習や復習をがんばった。
その中間テストの結果は、そのころに催された保護者の個人面談で
親に直接知らされた。
個人面談があった日、
母は険しい顔をして帰宅した。
ボクはクラスで後ろから数えたほうが早い順位だった。
その日の夕食後、父も含めてボクの成績について話し合われた。
ボクはただただ小さくなっていた。
決してさぼっていた訳じゃない、わからないところがあったわけでもない。
それなのに、テストをしてみたらこんな結果だった。
小学校では塾にも行っていたし、成績は常に上位だった。
塾での成績もいい方だった。
あすかが行ったのと同じ選抜クラスにも行っていた。
でも、ボクが通っている学校にはそんな子ばかりが入学しているんだ。
いやそれ上に優秀な子が。
父がボクの頑張りを認めてくれたうえで、
「勉強って、がんばっても結果が出なかったときはやり方が間違っていることが多いんだ」
と言った。
勉強のやり方、そんなことは考えたことがなかった。
でも、このままだと次の期末テストでも同じことになってしまう。
母は
「部活はサックスやってる場合じゃないでしょ。勉強が軌道にのるまでお休みしたら」
と言ってきた。
やっぱり、と思った。
「せっかく始めたばかりだし、まだ辞めたくない。期末まで待ってほしい」
ボクはそう言った。
まだ1年生だし、と父に促されて母もしぶしぶ承知した。
ああ、ボクは自分に足かせをつけてしまった。
こういうの、嫌なんだけどな。
でも、サックスと部活のために頑張ろうと決めた。
次の部活の日、
片桐に思いきって勉強法をきいてみた。
彼は成績上位だ。
馬鹿にされるかと思ったけど、片桐はノートの取り方や復習のポイントなど
教えてくれた。
「渡辺、中間でしくった?」
その通りだ。期末で挽回しないとあとはないことも話した。
片桐にはトップオブジャパンの大学に通う兄がいるそうだ。
期末の前、その兄さんに勉強教えてもらおうという話にもなった。
そのころからボクは片桐とよく話すようになった。
中学生になると今までの学校生活とはガラッとかわりますね。
応援していただけると感激します。