高1~挑戦
また春が来た。
桜の花びらが舞い、新緑のかをりを乗せた風が吹く。
ボクは高校生になった。
と言っても、そのまま進学しただけだから、
学校の場所も同じ。
制服は、ネクタイの柄だけが変わった。
クラス替えがあり、数人は初めて同じクラスになるやつらだった。
ボクは学校では何人かの友人と適当に話し、授業を受け、
吹奏楽部の練習に参加し、そして家に帰った。
なんてことのない毎日だ。
そんな時、るるちゃんから連絡があった。
翔×マリアのグループメールではなく、ボク個人あてに。
そんなことは初めてだった。
「オーディションに付き添ってほしい」
とのことだ。
なんでも、女優になるためのオーディションが週末にあるらしい。
それに一緒に来てほしいと。
そんなの、自分だけで行けよ、と思ったけどどうせ暇だし付き合うことにした。
週末、都心のとある駅でるるちゃんと待ち合わせをした。
誰にも言わないで、とのことなので、まいかにも今日の事は内緒だ。
るるちゃんは、ファッション誌を参考に精一杯頑張りました、と言った姿で現れた。
普段のほうがよっぽどいいのに、と思ったけど言わなかった。
るるちゃんと雑居ビルの広めの会議室なようなところに行く。
そこがオーディション会場のようだ。
すでに大勢の人がいた。
るるちゃんより若い子も多い。
男子もいるけど、女子の方が圧倒的に多数だった。
入り口の受付で、何か紙をもらい「審査会場」とかかれた部屋に行く。
ボクは付き添いなので、そのそばにあった廊下の長椅子で待つことにした。
審査を終えたらしい人たちがそばを通り過ぎる。
友達同士で来てる子もいて、いろいろと話ている。
そんな話をしっかり聞きながら、ボクはスマホでこのオーディションについて調べてみた。
そうか、そういうことか。
ボクは納得したけど、るるちゃんに言うべきか悩んだ。
ここはただのタレント養成所の入所オーディションだった。
しかも、大量に合格させる。
ほとんどが合格だ。
そんなことを調べていると、るるちゃんが戻ってきた。
手には封筒を持っていた。
「合格だって」
とうきうきしながら言った。
とりあえず、オーディションを後にして、近くのファストフード店で、
シェイクを飲んだ。
るるちゃんが持っていた封筒の中身をみせてもらう。
やはり、タレント養成所の入所案内だった。
入所金 30万円
レッスン料 半期15万円
写真撮影費 5万円
プロフィール作成料 5万円
となっており、
レッスンは月に3回。各1時間。
一年目の予備科と2年目の本科を終えると、
選別試験があり、合格すればプロダクションの予備生となれる、そうだ。
思い切ってるるちゃんに聞いてみた。
「ここに入るの?」
「せっかく合格したし。がんばってみたい」
そういうるるちゃん。
「この費用、どうするの?」
「今までの貯金で1年分なら出せるから」
ボクはるるちゃんに、
他にもチャレンジした方がいいと伝えた。
すると、
「いろんな芸能事務所に入所希望の書類、送ったけど全部だめだった。
こういう養成所でもいいから入りたい」
という。
気持ちはわからないでもないけど、怪しすぎる。
「親には言ってあるの?」
これも気になるところだ。
「何も言ってない。私はただそのまま大学に行くと思ってる」
るるちゃんの親はるるちゃんが演劇部にいるのは、
女優をやりたくて、ではなく裏方をやりたくて、だと思っているらしい。
それから、いろいろとるるちゃんはボクに相談してきた。
でも、ボクの答えはいらないらしい。
自分に言い聞かせるように、自分を納得させるように、
ボクに言ってくる。
ずっと聞いていたけど、ついにるるちゃんに言った。
「まいかも、あすかも何か自分でやりたいことがあった時、
自分で行動したよ。自分だけで」
そう、まいかもあすかも、こんな時があったとしても
決して誰かに付き添ってなんて言わない。
自分で決めて自分で動く、それも迷わず。
そこが、るるちゃんとの違いだと思った。
るるちゃんがすこしだけうつむいた。
「だって、私、まいかたちみたいに強くないから。
演劇が好き、女優になりたい気持ちは誰にも負けない、そう思ってるけど
自分で行動できる力がないの」
ボクにはるるちゃんの好きという気持ちは
とても小さく、もろいものなんだと思った。
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