中1が終わる~また桜の季節
るるちゃん経由で依頼があった高齢者施設でのイベント、
春休みを使って準備し、暖かい日に実施された。
計画通り、ボクと海のサックス演奏、そしてあすかの歌、
まいかはお年寄りにもできる簡単な運動を取り入れ、
入居者みんなが参加できるダンスをやった。
その司会進行はるるちゃん。
始めの数分こそ、恥ずかしそうにしていたけど、だんだんと楽しそうに話していた。
陸は音響や小道具の準備、文字通り裏方に徹していた。
るるちゃんのおばあちゃんや他の入居者のお年寄りがとても楽しんでくれた。
その人たちをみながら、ボクは小学1年生の時に死んでしまった、ボクのおばあちゃんを思い出していた。
イベントが終わると、施設の職員さんと入居者の何人かがおしるこを作ってくれた。
ボクたちは完全なボランティアでここに来たから、
せめてもの差し入れということらしい。
甘いおしるこ、ボクはそろそろこういう甘いものが苦手だったけど、
ここでは喜んで食べた。
他のみんなも美味しそうにほおばった。
そんな姿を、何人かのおばあちゃんたちが見ていた。
「うちの孫みたいだねえ」
「もうずっと会ってないんだけどね」
皆、そんなことを言っていた。
なんでこの人たちの孫は会いに来ないんだろう。
死んでしまったらもう会えないのに。
ボクは自分のおばあちゃんが入院してそのまま死んでしまったことを思った。
春休みは学年が変わる境目の休暇だ。
そのためか学校から出される宿題や課題が少ない。
今度高校に入学するまいかは想定外に課題がでたらしく、
ぶつぶつ言いながら、部屋にこもっていた。
そんな時に家の中でサックスを吹いてみたらすぐさま、
「うるさい、勉強してるんだから静かにして。サックスならよそで吹いて」
とまいかから文句を言われた。
まあ、防音も整っていない家のなかじゃうるさいよな、
そう思って、ボクはぶらっと散歩に出た。
ちょっと歩いてコンビニにでも行こう。
うちから少し離れたところにあるコンビニに入ると、
そこにあすかがいた。
お客ではなく、このコンビニで働いているようだった。
「あ、あすか。なんでここにいるの?」
コンビニの制服をきて、レジにいればアルバイトしてるってすぐにわかるのに、
わざわざ聞いてみボク。
「バイトだよ、稼がないとね。生活するにはお金がかかるの」
あすかは言った。
コンビニでのアルバイトは短い時間でシフトに入れるので都合がいいそうだ。
店内にお客は少なかったので、ボクとあすかはレジ越しにこんなことを話していた。
ボクが飲み物でも買って帰ろうと、商品を選びに行ったとき、
入れ違いにレジに並んだ男が、
「ねえちゃん、バイト終わり何時?まってるから付き合わない?」
とかあすかに言い出した。
ほんのりお酒の匂いがしているから酔っ払いだ。
「今日は親が迎えに来るので」
あすかは軽くあしらっている。
「じゃ、ここで少しはなそうよ。せっかくだし」
酔っ払いは引き下がらない、
「今バイト中だから、仕事するね」
とかわすけど、
今度はボクの方をちらっと見たその酔っ払いが、
「あの兄ちゃんとは仲良さそうに話してたじゃん、なんで俺とはダメなの」
と言ってくる。
「だって、私の彼氏だもん」
とあすかが言う。
え、ボク、彼氏?
ボクの方が驚いた。
ボクとあすかじゃどうみても姉弟だよ。
でもそれを聞いた酔っ払いは
「え、そうなんだ、彼氏と一緒じゃしょうがねえなあ」
と頭をポリポリかきながら、レジを済ませ店を出て行った。
「若いっていいよなあ」
と一人ぼやきながら。
ボクとあすか、付き合ってる、と言われて信じる人もいるんだ。
それが酔っ払いだったとしても、
正直、驚きだった。
「変な奴いたね、まだ店の近辺にいるかもしれないから、
お店出たら、全速力で走って帰るんだよ」
あすかが心配そうに言った。
「でもあすかが帰るときに待ち伏せされたら?」
それが心配だったので聞いてみた。
「親が迎えにくるっていうのは本当だから」
そうか、それで安心したボクは店を出ようとした。
その前にあすかに
「あの、ボクが彼氏って」
あの言葉の真相が聞きたかった。
「ああ、とっさに出ちゃったんだよ、けいたが彼氏ってありえないでしょ」
大笑いしながら言う。
そうだよね、とボクがつぶやくと、
「でもさ、けいたが彼氏って言っても疑わない奴もいるんだね、
けいたももうそんなお年頃なんだ。なんだかおねえちゃん、うれしいよ」
ボクはなんだか子ども扱いされたようで少しムッとしながら
店を出た。
それでも、とっさの事とはいえ、ボクのことを
「彼氏」と言ってくれたのがうれしいと思った。
そしてたまらなく恥ずかしくなった。
その気持ちを静めるために、店を出るとあすかに言われた通り、
全力疾走して家路についた。
店の近所にあの酔っ払いの姿はもうなかった。
中1と高3、さすがに付き合ってると言われても無理がありますよね。
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