中1の冬~ 受験シーズン
年が明け、正月休みもおわり街はいつもの情景に戻ってきた。
クリスマスのように華やかなイルミネーションもない、
灰色の寒い街。
ボクが住む地域は寒冷地ではないけど、時々は雪がちらついたりしていた。
この寒い時期は受験シーズンだ。
中学、高校、そして大学。
ボクも去年の今頃は中学受験真っ最中だったな。
まいかが高校受験をすることになり、我が家は2年連続で受験生がいることになった。
受験生がいると、何かと気を遣う。
特にこの時期にはインフルエンザや胃腸炎なんかが流行り出す。
去年は毎日のように免疫力がアップするという飲料を飲み、
うがい、手洗いを徹底した。
そして、家の中ではアロマの香りが漂う加湿器が置かれていた。
おかげでボクは体調を崩すこともなく受験に挑めたのだ。
今年も、去年と同じレベルの対策がとられた。
抗菌作用があるといわれているユーカリの香りが漂い、
あちこちに除菌スプレーが置かれていた。
それなのに、ボクは風邪を引き込んでしまった。
今年流行りの咳の出る風邪だ。
まいかの受験日まであと数日。
なんとしてもまいかにうつしてはいけない。
ボクはまいかの部屋から一番遠いところに隔離された。
幸い、ボクの風邪が他の家族にうつることはなく、
まいかは受験の日を迎えた。
受験に向かうまいかに、スマホから声援を送った。
ほんとは、合格の縁かつぎしているお菓子でもわたしたかったんだけど。
受験も終わり、ボクも隔離生活から解放された。
久しぶりに皆と同じテーブルで夕食を食べた。
まいかは、というと受験の手ごたえはそれなりにあったようで、
ぺらぺらとよくしゃべった。
しばらく学校を休んでいたので久しぶりに登校し、吹奏楽部の練習に参加していた時、
まいかから翔×マリアのグループメールに連絡が入った。
「勝利」と書いてああった。
まいかは志望校に合格した。
その日の夜、いつもより豪華なおかずが食卓に並んだ。
まいかは試験の結果、優秀な成績だったようで特待生での合格だった。
入学金と授業料の一部が免除になるそうだ。
我が家にとってはありがたいことだ。
と母が喜んだ。
そして、ボクもまいかも3学期を終えた。
ボクにとってはただの終業式だっけど、まいかにとってはこの学校とのお別れだった。
中間一貫校では中学での卒業式というものはやらないことが多い。
まいかの学校でもそうだった。
終業式の日、まいかの担任の先生が、まいかとあと一人、外部受験をした生徒に対し、
「ほかの学校でも元気で頑張ってください」
と言ったのだそうだ。
ホームルームが終わってみんな下校するとき、たくさんの友達がまいかに
話しかけてきた。
外部受験するとわかった時から、なんだか意地悪する子もいたけど、
大半はまいかに好意的だったのだ。
まいかを嫌っていた数人は、怪訝な顔をしてさっさと帰っていったらしい。
残った友達はまいかにプレゼントをくれたり一緒に写メを撮ったりした。
まいかと離れるのは寂しいけど、ダンスを頑張ってほしい、と言ってくれた。
その中には、るるちゃんもいた。
友達からもらったプレゼントのいくつかは、それからかなり長い間、
まいかの部屋に飾られていた。
まいかは中学生活をとてもいい思い出で締めくくることができたようだ。
春休みが始まった。
まいかの合格のお祝いを兼ねて、
翔×マリアのメンバーで集まった。
名前なんか付けたけど、実は何も活動なんかしていない。
この「翔×マリア」
まいかが「高齢者施設でも出し物、やらない?」
と提案してきた。
なんでもるるちゃんのおばあちゃんが入所している施設で、
定期的にいろいろなイベントをやっているそうだ。
マジシャンが来たり、売り出し前の演歌歌手がきたり。
でも施設も経済的に苦しいので、完全なボランティアで来てくるほうが
ありがたいらしい。
そこで、まいかたちに何かやってもらえないか、と相談してきたそうだ。
「よし、やろう」
すぐに片桐陸が答えた。
「海とけいたがサックスを演奏し、あすかが歌う。そしてまいかはじいちゃん、ばあちゃんが
できる範囲で一緒に踊るとかすればよくない?」
「じゃ、陸はなにするの?」
そう、陸の出番がない。
「いや、俺は演出といか、裏方というか、そんな役割」
「じゃ、司会とかやってよ。芸人さんみたいに」
陸は自分は目立ちたくないようだ。
裏方とか音響をやると言ってきかない。
「その、るるちゃんって子に司会頼めないの?」
陸が言った。
「そうだよ、るるちゃんに頼もうよ」
あすかが会ったこともないのに乗り気で言う。
「るるちゃん、内気な子なんだけど」
とまいかがボクに同意を求めるように言ったが、
「るるちゃんなら、大丈夫だよ」
そう答えた。るるちゃんならできそうだ、そう思った。
まいかがしぶしぶるるちゃんに事の経緯をメールする。
するとすぐに、るるちゃんから直接電話がかかってきた。
スピーカーにはなっていなかったけど、るるちゃんが全力で断っているのが聞こえた。
まいかのスマホをあすかがとりあげ、
「あ、るるちゃんだよね、できるよ、るるちゃんに頼んだ。よろしく」
と一方的に話した。
しばらくの沈黙のあと、
「わかった!やってみる」
とるるちゃんが答えた。
翔×マリアのメンバーにるるちゃんが加わった瞬間だった。
方向性のさだまっていない「翔×マリア」初めてのイベントが決まりそうです。
どうなることやら。
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