持つものと持たざる者
第7話 【持つ物と持たざる者】
「お帰りなさい」
「パパおかえり!! 」
「だーーー」
クロスは浮かない顔で帰宅した。
それはヴァイスの目から見ても明らかで、そしてその原因についても予測できていた。
王都特別遠征騎士隊副隊長、レイン・カーサの件であろう。何が起こっているのか聞いてみたいが、子供のヴァイスに素直に教えてくれるはずも無し。
クロスは妻のサクルへと何やら耳打ちし、その言葉に僅かながら動揺したのを見逃さなかった。
いつもと違う重苦しい空気を察したのか、アリアが泣き出した。サクルが抱き上げあやすと、安心したように静かになった。
その日の食卓はそのまま何事も無かったかのように終わりを迎えた。
不安はあるが、肉体労働の後に満腹になったとなれば、眠くなるのが道理。
ヴァイスは早々に就寝した。
次の日の朝、無数の何かが家を細かく叩きつけるような音で目を覚ました。
「はぁ〜よく寝た。今日は雨かぁ」
リビングへ向かうとアリアとサクルがすでに起きていて遊んでいた。
「あらヴァイちゃんおはよう」
そう言うと両手を差し出してヴァイスを呼び寄せる。おはようの抱擁だ。
これが母親でなく彼女だとしたらどれほどの神シチュエーションなのだろう。
ヴァイスにとって夢だ。そう、前世は童貞社畜だった哀れな男の叶わぬ夢だ。
家の中にクロスはいなかった。
雨の日に農作業へ向かうことは基本的に無い。
となれば昨日の件でどこかに向かっているのだろうと推測した。
ヴァイスは雨の日でも欠かさず家の裏手で魔力訓練を行う。日々の小さな努力の積み重ねは如何なる状況下でも継続するべき。
心の奥底にまで染みついた社畜魂が功を奏してか、この世界でのヴァイスは1人黙々と成長し続けていたのだ。
時を同じくして、村の男達数名と共に王都特別遠征騎士隊は森の中をくまなく捜索していた。
先日、この地へ逃れついたと思われるスパイドを討伐する為だ。
定期的に魔物が襲いかかってくる。
しかし、普段おとなしい一角ガエルや痺れ兎などの弱小魔物も狂ったかのように突撃してきた。
魔物とは魔法適正を持ち、魔力を操ることで攻撃してくる生物の総称である。
人間においても魔法を使える者は限られる。
魔法はまだまだ解明されていない点が多い。
魔物の中には人語を話す者もいる。
知能の発達や肉体の異形化なども魔力が引き起こす“何か”なのかもしれない。
そして魔物を討伐できる者は魔法適正を持つ者だけだ。今回、村から派遣されている男達は皆魔力持ちだ。クロスは村でも指折りの魔力持ちで、絶対量だけなら村長を超える。
王都特別遠征騎士隊の中でも上位に入る魔力量だ。
しかし、魔力操作はあまり得意ではない。
そのせいで、村人からも宝の持ち腐れと良く笑われた。しかし冒険者になりたい訳でもない。
農夫に魔力操作など不要とクロスは考えていた。
もし戦うことになったとしても魔力量で押し切るという脳筋プレイでも村周辺の魔物程度であれば問題ない。
捜索は終始トラブルも無く1日目を終えた。