騎士と村長
第6話 【騎士と村長】
村長の家は村の中心にある。
村の建物では群を抜いて大きく、周囲は柵で囲まれ、避難所や会議場、一時的な倉庫等にも使える広間があり、滅多に訪れないが、来客用の部屋も用意してある。
外から見ると小さな村にしては贅沢な建物に見えるかも知れないが、村長とその家族が生活する場所は、大きな建物に併設されている質素で小さな建物だ。
その小さな建物の一角に、村長、騎士の青年、そして私クロスの3人が囲炉裏を囲む形で座っていた。
村長が簡単な夕食を振る舞い、落ち着いたところで、青年騎士レインから話を聴いているのだった。
「…お話は解りました。村への滞在は、こちらの建物の客間を使われると良いでしょう。食事に関しても、数日でしたらこちらが提供します」
「ご協力、感謝いたします」
「しかし、その追っている魔物というのは、どれ程危険なものなのでしょう?場合によっては村人全員、こちらの建物に避難させる必要もあるかも知れませんが…」
「村長殿は、魔物には詳しいだろうか。追っているのはスパイドと言われる種類の魔物なのですが」
「スパイドというと、蜘蛛の魔物ですな。この辺りではあまり見かけませんが」
「その通りです。ただ、本来スパイドはあまり縄張りから遠くへは移動しません。今回我々が追っているのは、特殊な個体なのです」
「特殊、というと?」
「まず知能が高い。王都近くの森で発見されましたが、ここまでの道中、何度も逃げられました」
「ふむ。王都へは早馬でも1週間はかかりますな。魔物が単体でそれ程移動するとは、確かに特殊ですな」
「はい。戦闘能力は然程でもないのですが、他の魔物を操ると言うか、焚き付けると言うか、とにかく自らはあまり戦わず、他の魔物を嗾けてくるのです」
「なるほど、となると、この辺りの魔物も…」
「その通りです。ですから、この地域で危険度の高い魔物に関しても、ご教示いただければと思います」
「ふむ…危険度で言えば、フォレストウルフという狼の魔物がおりますな。数は多くありませんが、冬場や不作の折には村に侵入する事もあります。人が襲われたという記録もありますが…」
村長は言葉を僅かに詰まらせる。
「何かあるのですか?」
「いえ、出来ればあまり殺したくはないのです」
それを聞いた青年騎士は、目を細める。
「魔物を崇拝する事は、教会によって禁じられていますよ」
「ああ、いえ、そういう事ではなく。頭数が激減した時に、ネズミやリスが大量発生したという記録がありまして。作物が殆ど食べられてしまい、大変な食料危機になったと。ですので、村ではなるべく殺さず、撃退するに留めているのです」
「共生関係という事ですか。なるほど、確かにそういった説も聞いたことはあります」
「はい。ですので…」
「解りました。保証は出来ませんが、努力しましょう。避難については、実際に何か動きがあってからで充分だと思います」
「解りました。ありがとうございます」
私は横で黙って2人の話を聴いていただけだが、どうにも嫌な予感がしてならなかった。