現在と過去
第5話 【現在と過去】
収穫した果物が甘い香りを放ち鼻口をくすぐる。
収穫カゴも子供のこの身体では腕が回り切らない。
縁から果物が顔を覗かせている。
普通子供が持てる量じゃないぞと心の中で父に対して不満を思う。
身体に魔力を巡らせて強化をしているヴァイスでなければ、持ち上げることすら叶わないだろう。
このあり得ないほどの量は、父からヴァイスに対する信頼の表れなのかもしれない。
そう受け取る事にしてせっせと帰路を急ぐ。
「しかしこの果物は見た目はりんごなんだよなぁ。なのに味が違うせいで違和感しかない」
この世界には元の世界と見た目が近い物は多いが色味や味、香りなどが違う事が多い。
それが記憶の中にある食べ物とズレを生じさせ、今だに混乱する。
「はぁ。そういえば米とか食べたいなぁ」
こちらの主食は野菜に魔物の肉。時折果物が食べれるが、根本的に甘味が無い。
砂糖を初めとした調味料的な物が貴重で手に入らない。
昔、母親にそう教わった。
元の世界ではファミレスなんかでもご自由にお使いくださいと置いてあった。
この世界で考えるなら大金が無造作にサービスとして置いてあるような物だ。
過去の常識、今の非常識。
環境が変われば価値観も変わる。
地球から戦争が消えない理由がわかった気がする。
そんな気がしただけで何もわかって無いのは言うまでもない。
貯蔵庫に果物を置いて家の中に戻る。丸太を重ねて造ったような家の扉を開くと、蝋燭の優しい光に照らされた室内に、女神の化身たる我が妹、アリアが満面の笑みで出迎えてくれた。
まだ言葉も話せないが両手をピンと伸ばしてダーダーと抱っこをせがんでくる。
今すぐ抱きしめたい。
だが農作業で汚れたこの身体で触れるなど、許されざる行為だ。
「ママ〜身体綺麗にしたいよ」
「そうね。ヴァイちゃんいっぱい頑張ったのね。今お湯沸かしてあげるから待っててね」
おっとりとした口調に柔らかい声。
手を差し出して頭を撫でてくれた。
そんな些細な事が無性に嬉しく感じる。
もしかしたら精神年齢が肉体年齢に引っ張られてるのかもしれない。
昔そんなセリフを聞いた記憶がある。
しかし思い出そうにも思い出せない。
必死に頭を回していると、外から母の声が聞こえた。
「ヴァイちゃん。いらっしゃい 」
外に出ると木桶に適温の液体が準備されていたのだ。雑巾の方が綺麗と言えるタオルを濡らして絞り、体をゴシゴシと拭いていく。
一通り拭き終わると、木桶のお湯を頭から被り、再び拭っていく。
「はぁスッキリした」
本当は浴槽に入りたい。
柚子の入浴剤なんか入れて。
そんな日本人のささやかな幸せがこの村には無い。
いつの日か湯船に入る。
それもヴァイスにとって、この世界での目標の一つなのだ。




