騎士の来訪
第4話【騎士の来訪】
父親と二人で畑仕事を終え、共同果樹園で果物を収穫してから帰路につく頃には、空が赤く染まっていた。
今日も充実した一日だった。早く帰って妹のアリアに癒されたい。
いつもと変わらない日常。
だが、その日は少し違った。
村の外から伸びている道を、幌馬車が一台こちらへ近づいて来る。随分と頑丈そうで、大型の馬車だ。
因みにこの村にも馬車はあるが、もっと小さい物が3台だけ。全て村長が管理している。
街へ収穫物を売りに行き、帰りには仕入れた物を持ち帰る。その為の貴重な交通手段だ。
街に行く時は大勢で見送るし、帰ってきた時も皆で迎える。
見覚えのない馬車は俺たち親子の前で止まり、荷台から鎧を着けた金髪の青年が降りてきた。
「この村の者だな。村長に会いたい。何処へ行けばよいのだ?」
口調が厳しい。嫌な感じだ。前世で苦手だった取引先の男を思い出す。
が、父は全く動じない。
「この村の農夫で、クロスと申します。こちらは息子のヴァイス。失礼ですが、あなたは?」
青年は冷静な返答に、少し驚いた様だった。口調も少し柔らかくなる。悪い人ではないのかも知れない。
「これは失礼した。私は王都特別遠征騎士隊副隊長、レイン・カーサといいます」
なんか偉そうな肩書きが出てきたぞ。
父が片膝を地面につけ、顔を伏せた。
多分身分の高い人に対しての礼儀なんだろう。俺も見よう見まねで倣う。
「騎士様でいらっしゃいましたか。知らぬとは言え、大変失礼致しました。ご無礼、お許し下さい」
「構わぬ。こちらこそ名乗らずに失礼した。貴殿は農夫なのに礼儀を知っている様だな」
「恐れ入ります」
「我々は討伐任務により、王都からある魔物を追ってきたのだ。この地域に逃げ込んだ可能性がある。村には注意喚起と、滞在の協力を願いに参った次第だ。村長にお目通り願えるだろうか」
「承知致しました。ご案内致します」
まるで別人の様に礼儀正しい父に関心していると、父がこちらに目を向ける。
「ヴァイス、解ったな。後は任せるぞ」
「うん!パパ、あとは僕が運んでおくよ!」
「良い子だ」
父が頭を撫でてくれる。精神年齢で考えたら俺より年下なんだが、ホッとするのはやはり父親だからなのだろうか。
「お待たせ致しました、レイン様。参りましょう」
村長の家へと向かう父親と馬車を見送りながら、俺は新しい出来事に胸を弾ませていた。
これが、この村でのスローライフに終わりを告げる出来事だとも知らずに。