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【仮面の襲撃】


ヴィスは心の何処かでガングリッドの無事を信じていた。

それは、自分の師が簡単に倒れる筈がないという信頼だった。


明らかな異常事態にショックを受けながらも冷静な部分を保てていたのは、その信頼と、そして日頃の教育があったからこそだ。

ガングリッドは記憶を失ったヴィスにとっての、要そのものであった。


だが、助けだと思われた人物からの攻撃とリズの反応によって、信頼と冷静は焦燥へ、そして怒りへと変わっていく。


「リズさん。こいつは…」


ヴィスが言葉を発し終わる前に再び仮面の人物から攻撃が放たれるが、ヴィスは躱す。

胸の内から湧き上がる燃える様な怒りを、ガングリッドの教えが辛うじて抑え込む。

周りをよく見ろ。観察しろ、と。


そして、思い当たる。仮面はさっき声を上げていた。ヴィスが助けだと思った相手は敵だった。つまり…


「ヴィス君、ちょっとマズイね、これは」


リズの声には余裕が感じられない。

2人は既に取り囲まれていた。敵の数は6人。


ヴィスは反射的に動いていた。躊躇していたら死ぬと、本能的に判断したのだ。

身体強化を一気に強め、腰のナイフを抜き放ち、仮面の1人の後ろへ回り込み、背後から飛びかかり、首元へナイフを突き立てる。


人間を殺したという事に抵抗は無かった。日常的に魔物を狩っていたヴィスであるが、それでも敵の顔が見えない事が、ある意味では幸いしたのかも知れない。


仮面が倒れた時には、既にヴィスはその場に居なかった。

8歳の子供が戦闘能力を持つという事の違和感と、小さな体。

それに加えて身体強化による素早さで、周囲の皆が、まるで消えた様に錯覚する。リズも、そして仮面達の誰もが、何が起こったか認識するのが遅くなった。


「こいつ…!」


仮面の1人が叫ぶが、言葉は続かない。瞬く間に4人が地面へ倒れた。


「くそっ!」


残った仮面の1人が空へと魔法を放つ。火球が大きな音を周囲に響かせ、弾けた。

直後、ヴィスが眼前に現れ、首を掻き切った。


最後の1人は身を翻し逃走を試みるが、リズが立ちはだかる。


「何処にいくのかなぁ〜? 」


仮面は焦った様に火球を放ってくるが、リズは難なく躱す。懐に入り、仮面のローブの上から魔力を込めた掌底を撃ち込む。


「ボルト! 」


雷属性の攻撃に、仮面は意識を刈り取られ、倒れ込む。

それを見て、ヴィスは身体強化を弱めた。短時間の集中と急激な強化により、肩で息をしている。


「凄いね、ヴィス君。やるとは思ってたけど、ここまでとはねぇ。何、ヴィス君パパって実は凄腕暗殺者か何かなのかな?」


「師匠は昔は、中央魔法騎士団の副団長だったんだ」


「はあ?ん?ああ!砲撃のガングリッド?え?本人?あー、なるほどねぇ。小さい頃見た事あったわ。そっかー。『英雄冒険者』かぁ」


「それより、探さないと…」


「そうだね!そんな凄い人ならきっと無事だよ。でも、うーん。どうしようかな…」


「何が?」


「こいつらの1人がさっき空に魔法打ってたでしょ?あれ、仲間呼んでると思うんだ。集まって来られると、流石にマズイよね」


「う…確かに。僕の魔力もかなり減ってるし…」


「どうするかなぁ。魔道具があれば捜索も楽なんだけど、こんな状況だしなぁ…」


暫し黙考する2人。

その気配に気付いたのは、ほぼ同時だった。


「ヴィスくん」「リゼさん」


「うん、何が来るね」


瓦礫の向こうから現れたのは、ヴィスも見覚えのある人物だった。

先日、カフェでリズを摘み上げて連れて行った人物。


「所長〜!無事だったんですね!流石〜!」


白髪の男は、厳しい顔を変えずに答える。


「お前も無事で何よりだ。で?この死体と、把握している状況を説明しろ」


リズは所長と呼ばれた男にヴィスを紹介し、とりあえずの状況を説明した。

男は王立魔道具研究所の最高責任者であり、リズの上司にあたるそうで、グレイン・アークと名乗った。


ヴィスと魔道具、爆発、ガングリッド、仮面の敵。一通りの話を聞くと、グレインは肩掛け鞄から、手の平程の大きさの魔道具を取り出した。

複雑な模様の土台にレンズが付いている。


「まずはガングリッド殿からだな」


そう言って魔道具を起動する。

リズが言うには、魔力の場所を写す『魔力鏡』という魔道具だそうだ。


レンズの中心には小さな光が3つ、少し離れて1つ、そして、レンズの縁近くには6つの光が集まっているのが2箇所映し出された。

6つの光は少しずつ中心に近付いている。

グレインは1つの光を指して言った。


「うむ。恐らくこの光だろう。近いな、急ごう」


ーーーーーー


魔力鏡の示す場所の瓦礫を退けていくと、気を失ったガングリッドが見つかった。しかしその状態はヴィスには衝撃的なものだった。


左腕は肩近くに瓦礫が突き刺さり、左足も潰されていた。


ヴィスが呆然としていると、グレインがガングリッドを抱え上げる。


「まだ息はある。急ごう。大丈夫、この方ならきっと耐えられる。中央大聖堂と王宮近くは被害が少ない。大聖堂へ向かおう」


そこへ、再び仮面達が現れる。

今度は先程の倍、12人。魔力鏡に映っていた光だろう。

その内1人は、仮面もローブも深い紅色で、他の仮面とは明らかに雰囲気が違う。恐らく、統率者だろう。


ヴィスの中に再び怒りが湧き上がる。それは抑えきれない強烈な感情だった。

許せない。全員叩き潰してやる。しかし、僅かに残った冷静な部分が、逃げろ、ガングリッドを救わなくては、と言っている。

ヴィスの口から出たのは、こんな言葉だった。


「グレインさん、行ってください。ここは僕が止めます」


「しかし…」


「所長、わたしも残るよ。大丈夫。ヴィス君は強いよ。体格的にもガングリッドさんを運べるのは所長だけだしね」


「…わかった。おまえを信用しよう。無理はせず、厳しかったら大聖堂まで逃げなさい。残った戦力も集まっている筈だ」


そう言ってグレインは鞄からポーチを出してリズへ投げる。


「使え。足しになるだろう」


「ありがとう、所長。ほら行って!」


グレインが地面を蹴ると、瓦礫と埃が仮面達へ降り注ぐ。目眩しと牽制だろう。辺りの視界が戻る頃には、グレインの姿は消えていた。


ヴィスの残存魔力は、残り約1割である。

死闘が、始まる。

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