【生還】
魔道具の実験は楽しく時間が跳躍したような体感だった。
そしてこの魔道具が直ぐに日の目を見ることになるとはこの時は誰も予想だにしていなかった。
「ヴィス君。そろそろ練習終わりにしようか! 魔力ももうそんなにないんじゃない? あれから4時間も打ちっ放しだもん」
リゼの言葉で自分が夢中に魔法を放っていた事に気づいた。改めて自分の中に残る残存魔力を確認すると30%を切っていた。
「凄いよ! こんなにいっぱい魔法打ったのにまだ魔力残ってる! 」
もう30%しかないと考えるか、まだ30%もあると考えるかによってその後の展開は大きく変わる。
ヴィスの前向きな姿勢は成長限界の高さを示唆しているようだった。
「リゼ殿の言う通りじゃ。帰路の体力も考えれば消費しすぎとる位じゃ。また回復してから始めれば良い。それにそろそろ街を出るんじゃからな」
ガングリッドに言われて、今日街を出る事になっていた事を思い出した。
魔道具の楽しさを知った今ではリゼと離れる事がとても辛い。
ヴィスの表情を読み取ったガングリッド察したようだ。
「ほれ、またいつでも来れるんじゃ。しっかり修行に励み、また相談に乗ってもらえばいいじゃろう」
「もっちのロン! いつでも魔道具に関して聞いてね! 私も水属性についてさらに研究に研究を重ねて真理を追求するから」
ヴィスはリゼに感謝の意を伝えるのと同時に再会を約束し、部屋を後にした。
研究所の入口まで見送られ、別れを告げた刹那、王立魔道具研究所が大爆発を起こした。
咄嗟の事で反応が遅れたヴィスとリゼをガングリッドは思いっきり引き寄せ抱き締める形で庇った。
爆発音で何を言っているのか聞き取れなかったが次の瞬間には閃光と爆風により三人は数十メートル以上吹き飛ばされた。
気がつくとヴィスは瓦礫の下に押しつぶされていた。幸い傷は浅く、身体強化によりその場所から這い出でることができた。
瓦礫によって作られた山に立ち、辺りを見回して驚愕した。
爆発は王立魔道具研究所だけで起きたのでは無く、王都の城下町各所でほぼ同時に起こっていたのだ。
結果城下は先程まで存在していた家々が吹き飛び、荒野のごとく更地と化していたのだ。
人々は血まみれで倒れている。絶命している者の方がもはや多く、数少ない生存者も無傷でいるものは皆無であった。
ヴィスが突きつけられた光景に胃の中が熱くなり、視界が回る。ストレスなのか内蔵に損傷があるのか定かでないが、血を含む吐瀉物を撒き散らした。
胃の中が空っぽになるほど嘔吐を繰り返したおかげもあり、少し理性を取り戻すことができた。
最後に見た光景はガングリッドが自分とリゼを瞬時に庇っていた景色だ。
思わず血の気が引く。
ガングリッドやリゼの安否確認をしなくては。
「師匠!!!! リゼさん!!! 」
渾身の大声をあげて反応を待つが応答がない。
同じ所に吹き飛ばされている可能性が高いと考え、喉が擦り切れるほど声を張り上げ名前を叫ぶ。
耳に意識を集中した事で、魔力が集まり聴力が強化された。
窮地に無意識下で行った集中が高度な魔法操作である部分強化を習得出来たのは、日々の研鑽あってのものだろう。
瓦礫の下で僅かな呼吸音と助けを求める声を聞き取れた。
「ヴィ......ス.... け..... 」
リゼの声だ。
「リゼさん!!!! 」
夢中で瓦礫をどかす。
魔力が少ないのは体感できていた。しかし火事場の馬鹿力とはよく言ったもので、限界を超えた活動をヴィスは行っていた。
そうして願いが通じたのか、瓦礫に埋もれたリゼの姿を確認することが出来た。
積み重なった瓦礫が上手くリゼを避けていたようで、擦過傷は数多く確認できたが、命の危機は無く、思わず涙が込み上げてきた。
救い出したリゼを思いっきり抱きしめた。
「リゼさん。よかった」
「ははは。命からがら帰還成功。ちょっと痛いよ力強すぎ」
リゼは笑いながらヴィスに伝えた。
咄嗟にリゼから離れ、抱きしめた事を謝罪した。
生きていた事に興奮して思わず抱きしめてしまったが、冷静になると恥ずかしくなり赤面してしまった。
「そういえばガングリッドさんは? 庇ってくれなかったら多分私死んでた。お礼言わなきゃね」
ガングリッドの事を思い出して今度はリゼと二人でガングリッドの名前を呼ぶ。
ガングリッドの応答は無かったが、捜索するため声を上げていたのが災いしてしまった。招かれざる客をヴィスは呼び寄せてしまったのだ。
「おい、ここに生存者だ」
全身黒いローブで顔まで隠した正体不明の人物。顔には何やら模様が描かれた仮面をつけていた。
「あの、僕の師匠が瓦礫の下にいるんです」
ヴィスは助けを乞うたが、次の瞬間にはその正体不明の人物がこちらに向かって魔法を放ってきた。
間一髪避けることができた。
「ちっ。まだ動けるのか。運の良い奴め。女神に使徒たる者共に鉄槌を。死ね」
明らかに敵対の意識を示した相手に困惑しながらも臨戦態勢をとったヴィスとリゼ。
リゼは何かを気づいたようだった。
「やっぱりお前らだったか。この前も見つけたから爆発させといたのに。こんなに仕掛けてたとは盲点だったよ」
「この前? あぁ図書館前の仕掛けか。貴様がそうか。気づいていたのだな」
リゼの表情が怒りと後悔に染まっていくのをヴィスは見逃さなかった。




