【悪意の火種】
時は1日遡る。
荘厳な大聖堂、賑わう市場。そんな王都にも、暗い側面がある。
建国王グランデルグは王都を造るにあたって、古代遺跡を土台にしたと伝えられている。
都市の地下に縦横に広がる通路はしかし、その存在を知る者すらごく僅かであり、その存在を知る者も、迷路の様に複雑なその全容を知る術を持たない。
ただ、区画により明確に分断されているという事だけは、実しやかに伝えられるている。
城の地下の構造は王家の者にのみ伝承され、大聖堂の地下は高位の聖職者のみが知る。
そして、中央から外れた市街地の地下については、放置されたまま忘れ去られている。
その場所を偶然にも発見し、利用し、暗躍する者達が居る。
この国が祀る女神を敵視する、『真理の祭壇』を名乗る組織である。
寒々とした石造りの小部屋には似合わない豪奢な文机、天蓋付きの寝床。
その部屋の扉を叩く音が響く。
「なんだぁ。まだ日も高いうちに」
寝床から気怠げな声を出し起き上がった男は、引き締まった半裸姿にローブを纏いながら、渋々と扉へと向かう。
「お休みのところ申し訳ありません。直ぐにお伝えするべきだと思いまして…」
扉越しの僅かに切迫した声に、男は訝しむ。
「なんだ。さっさと言ってみろ」
「図書館広場の『仕込み』が潰れました」
「ああ?なんでだよ」
「『変人教授』が実験を行った結果だそうです。大騒ぎになっていました」
「またあの女か。目障りだな。それで?『仕込み』が露見したのか?」
「いえ、変人の実験失敗という事で片付いた様です」
「不幸中の幸いだな。まあいい。1箇所2箇所潰れたところで問題は無い」
「それから…」
「まだあるのかよ?」
「『砲撃のガングリッド』が現れました。本日、正門から王宮に入ったそうです」
「なんだと…確かなのか?」
「近年は王都に現れる事は少なかったですが、マークはしておりました。間違いないとの事です」
「この時期に現れるとは、厄介この上ないな。計画が漏れているのではないか?」
「まさか。その様な事はあり得ないかと。それに、どうも妙な点がありまして…」
「ほう?なんだ」
「確認の為、王宮に現れる以前の街での動向を探っていたところ、子供を連れていたそうなのです。男児だと思われます」
「はあ?なんだそりゃ。あ〜、なんとなくだが、こりゃ偶然だな。俺の勘がそう言ってる。とりあえず監視だけ付けとけ。ほっときゃさっさと街を出ていく可能性も…いや、待て…子供か。年齢はどの程度だ?」
「見たところ、7〜8歳ぐらいだそうです」
「なるほどぉ。んー、こりゃいい機会かもな。変人女もそうだが、ガングリッドが絡んでくる方が厄介そうだ。まとめて潰しちまえ。足手まといの子供がいりゃあ、上手い事巻き込みゃイケるだろう」
「はっ!」
「『真父様』には俺から伝えておく。予定通り、明日には動くぞ」
指示を出し、部下の気配が消えると、男は獰猛な笑みを浮かべた。
「この計画が成功すれば...... クックックッ。 誰も邪魔はさせん。怨嗟、憎悪、絶望、世界へ復讐を初める狼煙をあげるのだ」




