【ガングリッドの決意】
頭の中で先程まで事の整理が追いついていない。
まずは本を返しに行こうと思う図書館へ向かった。
受付のお姉さんに謝りながら渡すと、特にお叱りも受けることなく受領してもらえた。
安堵に胸を下ろす。
日も傾いてきたのでこのまま宿に戻ることにした。
そろそろ用事を済ませたガングリッドが戻っているかもしれない。
今日一日の経験や感動が全てリゼとの出会いで塗りつぶされ、良くも悪くもヴィスの心に強く焼き付けられた。
宿に戻るとガングリッドが既に戻っていた。
「おぉヴィス心配したぞ。何やら爆発が城下で起こっていたらしく、心配になって急いで戻ったんじゃが」
ヴィスはガングリッドに今日起きた爆発の詳細、リゼという人物について、頭の整理も兼ねて全て吐き出した。
ガングリッドは目を丸く見開き、鳩が豆鉄砲食らった顔をしていた。
「はぁ〜。そんな事じゃったんか。しかし、王立魔道具研究所の名前が出てくるとは思わんかったぞ。しかもそのリゼという女史はワシも噂を耳にした事がある。せっかく招待受けたんじゃ。ワシも同行して明日伺ってみるかのぉ」
「えぇ!? いいの!? てっきり反対するかって思って」
「実はヴィスが水属性の判定を受けた時に頭を過ったんじゃ。魔道具ならばもしや?とな。だからある意味運命かもしれんしな」
ガングリッドは酒を一気に飲み干すと組んだ足を1つ"パン"と叩きヴィスの目を見つめる。
「ヴィスよ。気づいているとは思うがワシャ"砲撃のガングリッド"なんて言われておった。昔は王国の中央魔法騎士団副団長をしとったんじゃ」
ヴィスはガングリッドの話に全霊を傾ける。
「二つ名の通りワシは無属性じゃ。それでも研鑽を積み重ね上り詰めていった。そしてこれからはワシの魔法の全てをヴィスに託そうと思っとる」
ガングリッドの決意には真の愛を感じる。
こんな王国の副団長まで勤めた男が、血の繋がりも無い拾い子を育て、更には鍛えてくれて、自らの研鑽の結晶を授けるとまで言ってくれている。
目尻に熱いものが込み上げてきた。
「ヴィスの水属性は残念じゃが戦闘には不向きじゃ。だが、水は命を紡ぐ。ダンジョンにおいても貴重な物じゃ。無属性を極め、水属性を命の糧にするんじゃ。その術をこれから伝えていく」
「師匠。ありがとうございます」
込み上げる涙に床が濡れる。
ガングリッドはそんなヴィスの頭を大きな手の平で撫でた。
「まずは飯じゃ。そんで明日になったら王立魔道具研究所へ向かうとするかの」
「うん」
そのままいつもと変わらぬ日常に時間は流れ、一夜が明けた。
「それじゃ行くかの」
「はい! 」
宿は今日で引き払う。魔道具研究所へ寄っていき、そのままバルト渓谷にある我が家へ帰る予定だ。
帰りの食料やその他の備品等はガングリッドが先日に買い出しておいてくれた。
パンパンに膨れ上がったリュックが小さなヴィスの身体に重くのしかかる。
「ほれ、魔力で強化せんか。今後は常時強化状態でいるんじゃ。無属性の修行はもう始まっとるぞ」
「はいっ! 」
王都に来てから訓練をしていなかった為か、魔力の流れに淀みを感じる。
「あれ? なんかうまく流れない気がする」
「集中せんか、バカタレが」
ガングリッドは拳をヴィスに落とす。
いつもより痛く感じたのは身体強化が上手くできていないせいだろう。
深呼吸をして魔力の流れを整える。
先程よりはマシになったが、数日修行を怠っただけでこんな風になるとはと、ヴィスの鼻っ柱が少しだけ折れたのは内緒である。




