【最弱属性】
曰く、生活[だけ]魔法。
曰く、おまけ属性。
曰く、水筒要らず、冒険者にも要らず。
ガングリッドは相当ぼかして話したが、要するに水属性は役立たず。それが世間一般の認識であった。
これが、砂漠などの水が不足する地域ならば話も多少違ったのだろうが、ゼレンデルグ周辺は広大な河が伸び、水に関しては十二分に存在する土地である。
雨も多く、魔物は水に慣れているので怯む事がない。
そもそも、仮に水を飛ばして攻撃したとしても、着弾する頃には飛沫になってしまう。よって戦闘には使えない。
対極の火属性を打ち消す程の力も、勿論持たない。
せいぜいが、飲み水を出す程度。
高い魔力量でも風呂に水を張れるくらいで、それも結局火で沸かさなければどうにもならない。
使えない属性の代名詞であり、研究もされていない為、魔法の種類も、資料も非常に少ない。よって学び様がない。
過去に最も評価された水属性魔法は、万能家政婦と呼ばれた女性の、洗濯魔法である。
ヴィスは聞いていて、暗澹たる気持ちになった。折角の属性が、最も役に立たないと言われれば当然である。
しょぼくれるヴィスをガングリッドは懸命に慰める。
「まあそうガッカリするでない。元々ヴィスは魔力量が多いのじゃし、無属性でも規格外の能力を持っとるんじゃから」
「それはそうだけど…」
「それとな、アンリ女史が言っておったが、宝玉の光は過去にない程に強かったそうじゃ。魔力量もあるじゃろうが、適性も桁違いという事じゃ。過去には例の無い新たな可能性もあると言っておったぞ」
「…本当に?」
「本当じゃとも。まだ子供じゃから、変に刺激すると良くないと思ってアンリ女史はワシにだけ話したが、ヴィスなら大丈夫じゃろう」
「うん。わかったよ」
「うむ。では良しじゃ。とりあえず、属性獲得祝いで、少し豪勢な食事にしようかの?」
「やった!わーい‼︎」
といったやり取りがあったが、ヴィスの気落ちは直ぐには治らなかった。
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滞在している宿「大鷲の止まり木亭」に戻ると、ガングリッドは女将に何かを伝え、2人は食堂に移動した。
大抵の宿には食事を出す場所があるが、酒場を兼ねる場合も多く、騒がしいのが通常である。
しかし、この宿の食堂は高級でこそないものの、長年大切に使われてきたであろう木製のテーブルや椅子が、品の良い落ち着いた雰囲気を醸し出している。
ヴィスが卓上のキャンドルをボーッと眺めながら待っていると、暫くして出てきたのは、シチューだった。
「このお肉…まさかリーバード?」
驚いた様子のヴィスに、ガングリッドはニヤリと笑う。
「目敏いのう。そうじゃ。塩漬けにして持ってきておいたのを、昨日女将に渡しておいたんじゃよ」
「前に食べたガングリッドの料理と同じ香りがするよ!」
「そりゃそうじゃ。そもそもワシが作ってやったのは、ここのレシピを参考に、もっと簡単にしたヤツじゃからな。こっちが本場じゃよ。さあ、食べてみるんじゃ」
「うん。いただきます」
ヴィスがシチューを口に運ぶと、溶けるように肉がほどけ、果物のような甘い香りと爽やかな酸味が広がった。
1年前の食卓が頭に思い浮かび、ヴィスの目から涙が溢れた。
それは美味しいからなのか、悲しいからなのか、懐かしいからなのか、ヴィスには判らなかった。
ガングリッドは少しの間、慈しむような目でヴィスを見ていたが、少し笑って自分も食事を始めるのだった。




