第24話 【バレット】
熊の魔物とガングリッドの攻防は続く。熊の攻撃は手で殴り付けるのが主だが、噛みつきもする。
ガングリッドは熊の攻撃に対して、僅かな打撃を与える事で軌道を逸らす様に弾き続ける。
時折熊の攻撃を弾きそびれ、後方へと弾かれるが、間髪入れずに接近し、再び攻撃を逸らしにかかる。
息も付かせぬ攻防に、ヴィスは唖然としてしまった。今までのガングリッドは常に余裕を持って魔物に対処していたが、今回はいつもにはない切迫感があった。
ガングリッドは周りをよく見ろ、観察しろと言った。ヴィスは少しずつ気持ちを落ち着かせ、状況を整理する。
今はガングリッドが熊を止めてくれているが、いつまでも保つ訳ではないだろう。となると、ヴィスが行動しなくてはいけない。
しかし、いくら魔力があると言ってもヴィスの体格では、熊とやり合うには無理がある。となると、やはり無属性魔法だろう。
周囲に他の魔物の気配は無い。
ガングリッドに当てるわけにはいかない。また、崖近くで撃てば、足元が崩れる危険がある。そう考えると、ガングリッドの動きは、熊を崖よりも森側に押し留めているように見える。
最小限の範囲、ただし熊の体を撃ち抜けるだけの強さ。よし。
ヴィスは魔力を巡らせる。この1年間、散々やってきた事だ。
掌に魔力を集中する。硬く、小さく、鋭く、そして撃ち出すのは速く。
熊の顎がガングリッドへ襲いかかる。ガングリッドは紙一重で躱す。ここだ。
「師匠っ!」
ヴィスの叫びに、反射的に後方へ跳ぶガングリッド。
魔法を撃つ場合、名称を口にする事でイメージが固定化され、成功率が上がると教わった。
イメージは、一度だけガングリッドに見せたもらった、古い狩りの道具、猟銃。その銃弾。
「バレットォォォオッ‼︎」
轟音。
熊の上半身と頭は、跡形もなく吹き飛んでいた。その後方では、樹木が2本ほどメキメキと音を立てて倒れていく。
熊の体が倒れ込み、辺りには静けさが戻る。
「やれやれ。狩人の銃というより、むしろ大砲じゃな…」
ガングリッドが汗を拭いながら近付いてきて、ヴィスの頭に手を置く。
「よく状況を見極めた。周りの被害も最小限と言って良いじゃろう。ワシの意図がちゃんと解ったようじゃな」
「うん。熊を崖から遠ざけてるように見えたから」
「そうじゃの。近接戦に参加しなかったのも良い判断じゃ。ありゃデスネイル・グリズリーといってな。爪の出し入れが異常に速い。攻撃の見極めが難しいんじゃ。ヴィスの体格で戦う相手でもないしのう」
ガングリッドはしかし、疲れたのか腰を下ろした。
「いや、久々にしんどかったわい。1人なら逃げとるところじゃ」
「2人でも逃げれたんじゃないの?」
「それでは修行にならんじゃろう」
ガングリッドはニカッと笑う。
「やっぱり修行かぁ。でも流石に危なかったよね?」
「そうじゃの。ワシも疲れたわい。熊の残った体はヴィスが解体してみい。それが終わったら、一休みして出発じゃ」
ヴィスが辺りを見回すと、丁度朝日が地平線から離れた所だった。




