【バーグラードッグ】
警戒を緩めず森の中を進む。ガングリッドが側にいるとは言え、ヴィスにとっては初体験だ。暫く進むと、どっと疲労が出てしまい、休憩する事になった。
ヴィスは身体の鍛錬を怠らず、魔力も上手く扱えるようになっていただけに、少し落ち込んでいた。
そんなヴィスにガングリッドは声を掛ける。
「まあ初めての事じゃからな。こういうのはいくら身体を鍛えていても、結局は慣れじゃ」
「うーん、そうかぁ。。」
「慣れればあまり気を張らずに周囲を警戒できるようになる。例えば…」
と言ってガングリッドは持っていた鉈を投げる。
鉈は草むらに飛んでいき、中から『ギャッ!』という悲鳴が聞こえた。
ガングリッドに促され草むらを覗くと、小型の犬のような魔物が絶命していた。
「すごい…よくわかるね、師匠」
「慣れじゃよ。もう少し細かく言うと、何も起こらない時と比べての違和感じゃな。あとは視線のようなものは魔物からも感じるからのう」
「こいつ、解体するの?」
「いや、そろそろ動こうかの。そいつはバーグラードッグと言ってな。集団で狩をするんじゃ。そこまで危険ではないが、荷物を掠め取られる場合もある。他にもいるじゃろうから、少し急いで移動した方がよい」
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森の中での移動に慣れている2人だが、やはり魔物の素早さには敵わない。結果として、2人は周囲をバーグラードッグに囲まれた状態で走り続けていた。
時おり襲いかかってくる個体をナイフと鉈で撃退する。
「師匠っ!これでも魔力使っちゃダメなの⁈」
「そうじゃ!これも経験じゃ経験!
ナイフだけでなんとかせい!」
「でも、これじゃあキリがないよ!」
「どんどん集まって来とるからのう!ちと多過ぎる気はするのう!」
走り抜けた先、森が切れたかと思ったら、切り立った崖に出てしまった。
2人は立ち止まる。あっという間に、集まって来たバーグラードッグに囲まれてしまった。
ヴィスは息が上がっている。
「はぁっはぁっ。師匠、どうするの?これ」
「ふむ。道中けっこう切ったんじゃが、まだ30はおるのう。丁度ええわい」
ガングリッドは崖を素早く登り、中腹の辺りの僅かに突き出た岩に乗る。
「ワシゃここで見とるからの。1人で魔力を使わず片付けてみい」
「ええ?ズルいっ‼︎」
傍から見れば、8歳の子供を魔物の群れに残して傍観する老人というのは随分な絵面であるが、ガングリッドはヴィスの事をまるで心配していなかった。
ヴィスは次々と襲いかかる魔物達を切り伏せていく。
もうすっかり慣れてしまったガングリッドだが、これは異常な事だと懸命に自分に言い聞かせるのだった。
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肩で息をしながらヴィスは地面に座り込んだ。
周囲にはもう動く魔物は居ない。
「ふむ。上出来じゃな」
ガングリッドが崖から降りて来る。
ヴィスは息を整えながら、不満を漏らす。
「魔力使えばすぐなのに…」
「で?あの数相手に打ちまくって、辺り一面の木々も根こそぎ倒すのかのう?この辺り木がこの大きさになるまで、何年かかると思う?何度も言うとるが、ヴィスは自分の力の影響をちゃんと考えて行動せにゃいかんのじゃ」
「それはわかってるけど…」
ガングリッドはヴィスの頭を撫でる。
「魔力無しでよく頑張った。この数は熟練の狩人でも少々手を焼くだろう。おぬしは優秀じゃ」
「…うん」
「さ、少し休んでおれ。ワシゃ状態の良さそうなのを見繕っておく。崖を登って場所が良さそうなら、今日はこの辺りで休むとしよう」
まだ辺りは明るいが、ずっと走り詰めだった2人は、早目に野宿する事にしたのだった。




