第19話 【無属性魔法】
魔法の修行一日目は酷い吐き気と共に終了した。
初循環にも関わらず(記憶喪失前は日課だったが)いきなり大量の魔力を急速に巡らせたため、魔力酔いを起こしてしまった。
あまりの淀みない循環にガングリッドは"あんぐり"していた。
あの顔は暫く忘れない。
食事中に思い出したら確実に吐き出すレベルの変顔だった。
だが今はそれどころではない。
世界が回っている。
自分を中心に世界が急回転したのならこのような景色が見えるのだろう。
幾度の嘔吐繰り返し、ようやく落ち着きを取り戻せた頃には深い睡眠に落ちていた。
嘔吐というのは非常に体力を使う行為なのだ。
翌朝、二日酔いもなく気持ちの良い朝を迎えていた。
昨日は夜食を食い損ねた。
だからこそ?朝食の匂いは格別なものだった。
半狂乱状態でガングリッドの元へ向かう。
「しっしょおおおおおお! お腹すいた!! 」
ガングリッドは突然背後から大声で声をかけられたものだから、驚きのあまり十センチ程飛び上がってしまった。
「バカもん!! 年寄りを殺す気か!! 口から心臓が飛び出てフライパンに乗るとこじゃったぞ!! 」
「ごめんね師匠。 でも空腹で死にそうなんだよ」
ガングリッドは"はぁ"と深く溜息を一つつくと、まるで犬でも払うかのように、"しっしっ"と手の甲でジェスチャーをして一言椅子に座ってろと伝えた。
ヴィスは素直に従い、椅子に座った。
すぐさまガングリッドは大盛りの朝食を運ぶと、"いただきます"と掛け声をあげて両手の平を合わせた。
目の前にあった大盛りの朝食は、あれよあれよという間に減っていき、姿を消してしまった。
慌ただしい食事も終わり、魔力操作の訓練二日目が始まった。
昨日は座学と魔力を身体に巡らし、身体強化する魔法操作訓練だった。
本日は、練り上げた魔力を球体状に変化させて飛ばす訓練だ。身体に留めるよりも放出する事は数段難しい。しかしこれが、属性を把握する訓練の一歩でもあるし、基本形でもある。
実は記憶を失う前、つまりヴァイスとして日々の訓練に明け暮れていた訳だが、この放出系の訓練はしたことが無かったのだ。
そしてガングリッドがお手本を見せる。
魔力が手の平に収束し、密度を高めて球体状に形を形成していく。
「ほれ、これが基本の形じゃ。魔力を巡らすのでは無く留める。そしてこれをこの様に目標に向けて放つ」
圧縮された魔力は数十メートル進み、先にある大岩へぶつかった。すると当たった部分が砕け飛び、大岩に50センチ程のへこみを作り上げた。
「この様に岩ならばこの程度だが、もし人に当ててたのなら、魔力操作出来ない者ならば、死は免れないだろう」
ヴィスは生唾をゴクッと飲み込んだ。
普段の優しいガングリッドの顔とは全くの別人と思えるほど、凄みを感じた。
「脅しはこの程度にして、ほれ、ヴィスやってみるんじゃ」
ヴィスは見様見真似で手の平に魔力を集中してみたのだった。




