ガングリッドの提案
第16話 【ガングリッドの提案】
俺は巨大な蜘蛛を追っていた。いくら追っても辿り付かない。
それどころか、蜘蛛はどんどん大きくなっている。
山のような大きさの蜘蛛がぐるりとこちらを振り返り、倒れてくる。
潰される、と思ったその時、逞しい男の手が俺の腕を掴み、蜘蛛から助けてくれた。
横に赤ん坊を抱えた女も立っていた。次の瞬間、彼らは美味そうな香りのする鍋を囲んで食事していた。全員顔がぼやけてはっきりとしない。彼らは俺を置いて去って行ってしまった。
そこで目が覚めた。
辺りに美味そうな香りが立ち込めている。腹が減ったなぁ、と思ったら、部屋にガングリッドが入ってきた。
「おお、よく眠っていたのう。けっこうけっこう。…んん?」
老人は一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに何事もなかったかの様に話を続けた。
「魔力の回復には睡眠と食事じゃ。夕飯が出来とる。リーバードのシチューは格別じゃぞ?」
「ありがとうございます」
「かぁ〜!硬いのう。子供がそんな言葉遣いなんてせんでええわい。何処ぞの貴族の倅って訳でもなかろうに。変な奴じゃのう」
「あ〜、すみません…」
「ええわい、ええわい。とにかく飯じゃ」
食卓には既に夕食が並んでた。
野菜の蒸し物、ソースのような物、そしてシチュー。
2人で席に座り、シチューを掬って口に運ぶ。
口の中で、シチューに溶け出すように肉がほどけた。程よい塩味と、何やら果物のような甘い香りが広がる。
思わず一瞬手を止めたが、そこからは手が止まらなかった。
慌てて食べると胃が驚くとか、そんな当たり前の事も忘れ、夢中で食べた。
野菜の蒸し物に合わせて用意してあったソースも甘い香りがして、シチューと交互に食べると、更に複雑な香りと旨みを味わう事が出来た。
会話も忘れて食べるヴァイスの事を、ガングリッドは満足そうに眺めていた。
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食事が終わり、2人で食器を片付け終えると、少し香りの強いお茶が出された。
「あんな美味い肉、生まれて初めて食べました。いや、何も覚えてないんですけど、多分。リーバードって言ってましたっけ?」
「おお、そうじゃ。水か豊富で果実が多い地域でしか獲れん。街ではなかなかの高級食材じゃぞ?獲るにもコツが要るしのう。機会があれば獲るところを見せてやるわい」
「是非!お願いします」
「んん。お前さんだったら教えれば直ぐに獲れるようになるかものう」
「そうなんですか?」
「そうじゃ。昼間に魔力量の話を少ししたじゃろう?ボウズの魔力だがの、ワシの見立てよりも更に多いようじゃ。昼に見た時よりかなり増えておる。まだ回復途中じゃとすれば、まあ常人のそれとはかけ離れておるのう」
「はあ…」
今一つ実感が湧かない。
「リーバードは小型でも魔物じゃ。速さも普通の鳥とは比べ物にならん。狩るなら魔力を上手く使う事が必須なんじゃ。魔力量が多いに越した事はないぞい」
「なる…ほど?」
「まあそれはそれとして、ワシから提案じゃ。ボウズは記憶がない。という事は行く宛もないのじゃろう?」
「はい…」
改めて現実を思い出す。何もわからないというのは、やはり不安だった。
だから、続けてガングリッドから出された提案は、まさしく救いの手そのものだった。
「やる事が無いなら、暫く此処で魔力の訓練をしたらどうじゃ?その内に記憶も戻るかも知れんしのう」
「いいんですか⁈」
「もちろんじゃ。街を捨てたとは言え、最近は少々退屈しておったしのう」
「ありがとうございます‼︎よろしくお願いします‼︎」
こうして、俺は暫くの間ガングリッド爺さんの世話になる事となったのだった。




