冒険者の道
僧侶の治癒魔法のおかげで身体の痛みはほぼ感じなくなった。
数日間眠っていたことにより、身体が強ばっている。ゆっくり身体を起こして身体中に筋肉を引き伸ばす。
"バキッボキッ"と再び折れてしまったのかと思わせるほど豪快な音を奏でて骨が強制されていく。
一息ついてヴァイスは目の前にいる老人に礼を言う。
「おじいさん。本当にありがとうございます。まだ記憶が戻ってないのか、何も分からなくて」
「気にすんな。ワシャ、ガングリッドじゃ。しがない木こりじゃ」
「木こりですか? それでその筋肉なんですね」
「あぁ、これでもワシャ元冒険者じゃからな。昔はブイブイ言わせとったんじゃよ。まぁ人間とのしがらみに疲れてこんな辺鄙な場所へ逃げ込んだ世捨て人みたいなもんじゃな」
"がっはっは"と豪快な笑い声あげると両手をピシャリと打って話を変える。
「細かい話はあとじゃ。まずは飯を食え。お前さんも腹減ったじゃろ? 」
全てが新たな情報として脳内に叩き込まれていた。その為か全く腹が減ったなど意識していなかったが、改めて言われると急に腹が鳴った。
「ほれ、身体は正直じゃ。今朝取れたレッドボアの肉じゃ。美味いぞ。野菜は裏の畑でワシが育てとる。とりあえずスープにしてやったからゆっくり食うんじゃ」
ガングリッドは柔らかな湯気の上がる具だくさんなスープを自作と思われる木の器によそって持ってきてくれた。木製のスプーンも合わせてヴァイスに渡し、"ゆっくり食べるんじゃ"と伝えると家を出ていってしまった。
木の器から手の平に伝わる優しい温もり。湯気に乗せられて鼻腔を刺激する濃厚な香り。
木製スプーンで1杯掬いとり、口へと運ぶ。
様々な野菜とレッドボアの肉汁が合わさり口の中を満たしていく。ゆっくりと野菜を噛む凝縮された甘みと、豊かな土壌の優しい香りがさらに鼻腔に触れる。
飲み込んで胃に到達すると、瞬間には血管に栄養が乗り、指の先まで運ばれていく感覚に包まれた。
「はぁぁぁぁぁ。身体中に沁み渡る」
がっついて食べたい気持ちもあったが、さすがの病み上がりということも考慮して、一口づつゆっくり噛み締めて味わった。
心も身体も大満足の食事だった。
タイミングを見計らったかのようにガングリッドが家の中に戻ってきた。手には見たこともない"鳥"が持たれていた。
「おう、食えたか。夜はこのリーバードを食うぞ。こいつは魔物の中でも抜群の美味さじゃ」
ガングリッドは嬉しそうに台所へリーバードを運んで行った。
「どれ、食器を下げるからこっちによこせ。おぉ、ちゃんと魔力も回復しとるな。よしよし」
「魔力ですか? えっとどういう事で? 」
「なんじゃお主、そんな事も忘れとるのか。言葉は覚えているのに、記憶喪失ってのは不思議なもんじゃな」
ガングリッドは未知の生物を見るような目でこちらを見てきたが、知らない物は知らないんだから仕方ないと、少し"ムッと"したが、ガングリッドは気付いたようで、咳払いを加えて話を続けた。
「お前さんは、身体もボロボロだったが、魔力も底を尽きかけていたんじゃ。身体には牙で噛まれたような痕もあった。予想だが魔物に襲われ、命からがら逃げて来れたというとこかの」
身体中を触って傷口を探す。
「あぁ、僧侶様の治療で傷口はさっぱり綺麗じゃよ。魔力だけはどうしようもないからのぉ。ワシの特製手料理の出番という訳じゃ。しかしお主が魔法適性者で良かったわい。適正無き者では確実に死んでいただろうな。しかもお主はかなりの魔力量じゃからな」
ヴァイスには眉唾な話だが、わざわざ嘘を付く意味も、お世辞を言う意味もない。
魔力量が多いため瀕死の重傷でも助かったということなのだろう。
「魔物を食えば魔力は回復できるしのぉ。しかもワシの特製料理は回復量が多いんじゃ。沢山食えばどんどん強くだってなるぞ」
右腕の袖をめくり、腕を90度折り曲げて、上腕二頭筋を見せつける。その"ドヤ顔"に思わず笑ってしまった。
「おぉようやく笑えたか。子供は笑ってる方が良いに決まっとるからな」
「ありがとう、ガングリッドさん」
「呼び捨てで良いわい。とりあえず今は寝とけ。夕飯の支度するからのぉ」
台所に向かうガングリッドに思わずヴァイスは願い出た。
「後でもっと色々教えてください!! 」
「もちろんじゃ」
自分の記憶が無い恐怖もあったが、ガングリッドのような人物に助けられた幸運を感謝して再びベッドに横になった。
満腹中枢が刺激されたことにより、同時に睡魔が襲ってきた。
今は運命に身を委ねヴァイスは再び眠りに落ちた。




