終結と分岐
狼の魔物は手強かった。
蜘蛛に操られているせいなのか、いくら攻撃しても、逃げなかった。
村長が話していた様な、共生の為の撃退など、最初から考えるべくもなかった。
何処から蜘蛛が現れるのかも解らない。
豪雨で視界も足元も不安定。
物理的にも精神的にも厳しい中、部下達は必死で戦ってくれた。
「陣形を崩すな!絶対に村に入れてはならない!」
付かず離れず、少しづつ攻撃し、削っていく。
傷付いたフォレストウルフが盾役の騎士達に突進する。3人がかりで辛うじて受け止めた。
「副隊長!今です!」
「よくやった!はああああっ‼︎」
私は部下の背中を土台に飛び上がり、遂にフォレストウルフの頭蓋を貫いた。
結局、蜘蛛は現れなかった。
村長へ報告しなくては。
私は部下達に周囲の警戒を支持すると、村長の屋敷へと向かった。
ーーーーー
クロスはヴァイスを追っていた。
サクルとアリアの事も、警報の鳴った北門の事も勿論気掛かりだったが、それでも追わずには居られなかった。
と言っても、蜘蛛もヴァイスも恐ろしい程の速さで森を走り抜けていってしまったので、痕跡を追うだけで精一杯だったのだが。
雨も次第に収まり、必死で追い続けた末に辿り着いた河は、いつもと全く違う景色を作っていた。
上流から鉄砲水でも来たのだろう。川端は広がり、普段は澄み切った水も濁流へと変わっていた。
水に落ちればあっという間に流されてしまうだろう。
河の周囲には上流からの流木や泥、岩石などが散乱していた。
そんな急流のほとりに、巨大な蛇の死体が転がっていた。
今まで実際に見た事はなかったが、河の主と言われていた魔物ではないだろうか。
流木により頭を潰されていた。
そして、ヴァイスの姿はいくら探しても影も形もなかった。
ーーーーー
数日経っても、ヴァイスは見つからなかった。
村人総出で探し、騎士達も動ける者は手伝ってくれたが、痕跡を見つける事すら出来なかった。
見つかった物といえば、蜘蛛の脚と思われる破片が2本だけだった。
サクルは外では気丈に振る舞っていたが、家では毎晩の様に泣いていた。
レインはヴァイスの事を最後まで気に掛けてくれていた。
ギリギリまで帰還を延ばしてくれていた様だが、負傷した仲間の応急手当も終わると、報告の為に王都へと戻る事になった。
「クロス殿、村長殿、それでは…」
「ええ。色々とありがとうございました」
「ご子息の事は本当に何と言ったらよいのか…」
「お気遣いありがとうございます。ですが、お話したように、息子は人間離れした力を持っていたのです。まだ可能性は残っていると、私は思っています」
「…そうですね。王都に戻ってしまうと何が出来るかは解りませんが、こちらでも何が情報があったら必ずお伝えします」
「感謝します。私も村長や妻と相談しまして、息子を探す為に遠出する事が出来ないかと考えております。何か進展がありましたら、お手紙を出させていただきます」
「わかりました。それでは冒険者ギルドに登録すると良いでしょう。王都とも連絡網で繋がっておりますので」
「そのつもりです」
「それでは、そろそろ行かなくては。またいずれお会いする機会もありましょう。それまでは暫しのお別れですね」
「はい。道中お気を付けて」
そして
レインは王都へ。
クロスはヴァイスを探す旅へ。
行方の知れぬ蜘蛛の魔物。
記憶を失ったヴァイス。
それぞれの道が交差するのは、まだ先の事である。




