豪雨と襲来
探索中は霧雨程度だったが、一行の帰還と同時に雨足は急に強くなり、豪雨となった。
レインとクロスが村長に先程の話を説明していると、村に鐘の音が響き渡った。有事の際に使われる警報だ。
しかし、その音は降り頻る雨により、酷く聞き取りづらかった。
レインは怪訝な顔を浮かべる。
「この音は?」
村長は眉を顰め、立ち上がった。
「村の警報ですな…この雨では…クロス、お前は家族を迎えに行きなさい」
クロスは頷くと、直ぐ様駆け出した。
こんな豪雨になる事はこの辺りでは珍しい。クロスの家は村外れで、雨音で警報が聴こえないかも知れない。
いや、もし警報が魔物の襲来だとしても、警報は北門からだ。家がある南門方向ならば、まだ危険ではないかも知れない。しかし、嫌な予感がする。
クロスは焦燥に駆られながら、雨の中を急いだ。
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俺は窓を少しだけ開け、外を眺めていた。強くなった雨が顔に当たる。この雨なら父は直ぐに帰って来るだろう。
魔物の一件が片付く迄は、あまり外出するなと言われていた。
それでも家の裏手で魔力訓練はしていたが、流石にこの雨では外に居られない。
こんな豪雨はこの世界では初めてで、畑仕事も出来ない。というか畑が心配だ。色々流されたりしないだろうか。
「ってか、退屈なんだよなぁ。せっかく騎士団も来てワクワクしてたのに、家を出るな、だもんなぁ」
と独りごちる。
まあ、わざわざ騎士団が追ってる魔物がウロついているのだから、父の言う事は当然だ。が、不満だ。どうも子供の身体だと、気持ちも子供っぽくなってしまう気がする。
雨が吹き込んでくるし、閉めるか。と思った時、視界の中で何かが動いた気がした。
目を凝らして見ると、何やら黒くて大きな塊が動いている様だ。
…なんだありゃ?デカい蜘蛛?
黒い塊がこちらを見た様な気がした。
その瞬間、背筋に冷たいものが走る。
ヤバい。あれはヤバいヤツだ。本能的に感じた。ゆっくりと窓から離れると、直ぐさま隣の部屋へ飛び込む。
「母さっ…ママ‼︎怖いのがいる‼︎」
サクルは夕餉の支度をしていたが、こちらを見て首を傾げる。
「なあに?ヴァイちゃん。大きな声出して。雨が怖いのでかしら?」
「違う‼︎パパが探してた魔物だ‼︎すぐ近くに来てるんだ‼︎逃げなきゃ‼︎」
いつもと違うヴァイスの剣幕に、サクルも異常事態だと直ぐに気付いた。
「落ち着いて、ヴァイちゃん。どこから見たの?」
「窓だよ!僕アリアを連れて来る!村長の家に行かなきゃ!」
「わかったわ。落ち着いてね。すぐ支度しましょう」
サクルは使っていた台所の火を落とし、蓑の様な雨具を用意する。
俺は寝ているアリアを抱え、3人は家の扉を開けた。
目の前に、巨大な蜘蛛が居た。
蜘蛛が腕を振り上げる。
俺は反射的にサクルにぶつかりながら避けた。3人は雨の中、地面に転がる。寝ていたアリアが起きてしまい、泣き声をあげる。
蜘蛛の腕は、一撃で家の扉を吹き飛ばしていた。
俺は唖然とするサクルにアリアを押し付け、叫んだ。
「母さん‼︎逃げて‼︎」
サクルは我に返ったが、躊躇していた。
俺はサクルの反対側へ移動しながら、地面の石を拾い蜘蛛に投げつける。
蜘蛛がこちらを向いた。
「早く‼︎父さんを呼んできて‼︎」
サクルは声を震わせる。
「でも…」
俺は必死で叫ぶ。
「大丈夫‼︎僕の足が早いの知ってるでしょ!アリアと行って!早くっ‼︎」
サクルは意を決した様だった。
「すぐパパを連れて来るわ!」
叫ぶと、アリアを抱えて走り出した。
遠ざかる2人に安堵しながら、俺は蜘蛛に対峙した。
物語の主人公は、なぜあんなに勇敢に闘えるのだろう。俺には無理だ。2人を逃しただけでも上出来じゃないか。うん、俺凄い。カッケー。でも限界。
俺の足は、さっき迄の動きが嘘の様にガタガタと震えていた。
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その頃、レインは警報の鳴った村の北門へ向かっていた。
途中、門から向かって来た部下と合流し、走りながら報告を聞く。
北門に現れたのは、巨大な狼の魔物との事だった。




