残業の終わり
第1話 【残業の終わり】
日本の夜は明るい。
まるで闇を嫌うかのように地上にも眩い光が煌めいている。
古より人々は空に神々を見ていた。
太陽の位置で時間を知り、星の配置で季節を知った。
常に人間の文明発展には光が関係しているのだ。
つまり光とは神に等しい訳だ。
現代の日本において空に光はほぼ見当たらない。
地上の光が天空に煌めく光を隠しているからだ。
つまり現代において神々は地上にいる。
そしてその神々とは暗闇を明るく照らす我らブラック企業の戦士達。
つまり社畜こそ神に等しい訳だ。
「ふ……ふっふふ、ふははははは。我は並の社畜にあらず。我こそ社畜力53万社畜神なのだ」
1人残されたオフィス内で男は叫んでいた。
何を隠そうこの男は30連勤目。
精神の崩壊が始まっていたのだ。
「ふざけんなちくしょ!! 死ぬぞ。まじで死ぬからな!! 」
最後に帰宅したのは一週間前。風呂に入ったのは五日前。彼女がいたのは前世。
お貯金額はまもなく一千万。
給料は薄給。しかし使う暇がない。光熱費なんてほぼ基本料金だ。
こんなブラック企業だからどんどん人は辞めていく。
だからこそ更に負担が増える。
悪循環とは一度出来上がればひたすらに成長していくものだ。
眠気を克服するためにコーヒーを入れにいく。
大量のミルクを投入して、からっからの胃に流し込む。
ブラックは嫌いだ。
コーヒーも会社もホワイトがいい。
迫り来る眠気に勝てず、瞼がどんどん重くなり、眠ってしまった。
「やばい! 寝ちゃった」
焦って飛び起きるとブラック企業には似つかわしくない、玉座の間に自分がいた。
「なんだ? まだ夢か。しかし変な夢だ」
「夢では無い。 主は死んだのだ。 過労死と言うやつだ」
先ほどまで誰もいなかった玉座に人の形をした光が現れていたのだ。
「ちょっと待って。俺彼女もできたこと無い。 まさか童貞のまま逝けと? 」
「残念だがそうなるな」
「金だって貯まってるのに使ってもいないんだぞ!? 」
「まぁそうなるな」
「ふざけるな!! 俺は何の為に生きてたんだ! 人生ってこれからじゃ無いのか! 」
男は腑が煮え繰り返っていた。
未来に希望を寄せて劣悪な環境を許容していた。
その結果がこれだ。
「結局俺は考えることを放棄して事態を先延ばしにしていただけだ」
怒りよりも自分自身が情けなくて涙が溢れてきた。
「まぁそんな訳だが、お主が哀れでな。チャンスをやろうと思うんだ」
「チャンス!? 」
「お主がいた世界とは別の世界に転生させてやる。そこで今度は生き抜いてみせろ」
願ってもいない申し出に、目に希望の光が宿る
「ほんとか!? 嘘じゃないんだな?? 」
「あぁ。それでは早速」
人の形をした光が手の平をこちらに向けると、視界が真っ白くなった。
思わず目を閉じて再び開けると、なんと赤子になっていたのだった。
それから月日は流れ6歳になったある日。
この世界での両親は、弟だか妹だかを懐妊していた。
転生前の人生は童貞で終わり、更に転生体は赤子からという、あの神っぽい光の気の効かなさに、我が息子の使用が更に遅れるという事実に苛立ちを覚え、ちょっと親に意地悪してやろうと思いこう言った。
「ねーねーママ、パパ! あのね、あのね! 赤ちゃんてどうやってできるの!? 」
無垢な顔をした精神年齢40歳近い大人子供が聞いている姿を自ら想像して気持ち悪くなった。
そんな心の中を両親は知る由もなく、二人は笑顔のまま顔を見合わせ
こう言った。
「赤ちゃんはね、お味噌とお水でできるのよ」
閲覧ありがとうございます。
ブックマークにコメントなどお待ちしております