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「これ、買取をお願いします」
「はいよー。……うぉっ!? 殺戮狐の皮! しかも複数枚!」
客の顔も見ずに対応しようとした露天商が目を見開く。
階層30番以降でしかお眼に掛かれない、超が付く高級毛皮が複数枚露天商の手に渡された。どれもこれも傷一つ無く、綺麗に身から剥されていた。処理の仕方も申し分ない。
露天商は客の顔を見る。フードを目深に被っており、目元は隠れているが女だった。それも年若く、肌艶も非常に良い。首元に奴隷の首輪があるが、身なり、所作、そして冒険者として実力はかなりありそうだと感じた。
「まいどありがとうございます。こちら、すべて合わせて金貨15枚で如何でしょうか」
「それで宜しくお願いします」
交渉する気も無い女に露天商は少々戸惑いつつ、安く仕入れられた儲けものだ! と喜びを胸に秘めて金貨を客に渡した。
女はすぐさま踵を返して露店から立ち去り、少し離れた木陰に佇む二人の元へ向かう。
「いくらになった?」
「金貨15枚」
「ちっ。だいぶぼられたな」
「我慢しろ。路銀は確保できたんだ。さっさと国境を超えるぞ」
フードを被った大男が二人と背の低い女が一人。それぞれが大きな荷物を抱えて足早にその場を去っていく。
ダンジョン周辺には冒険者や探査者、探索者がごった返しており、三人を気にする者はだれもいなかった。
三人はしばらくフードを被ったまま黙々と歩き続け、日が落ちる前に野営場所を決めると手慣れた様子で準備を始めた。
カトレアは外套を脱ぎ、この一年で随分と伸びてしまった髪を鬱陶しそうに手で跳ねのけた。それから近くに埋まっている大き目の石の平たい部分を高温の蒸気で消毒する。空中には球形の熱湯の塊を作り、その中にリュックから取り出した腸詰を放り込んで塩ゆでをした。殺菌効果のある葉っぱで包んでおいた生肉は先ほど殺菌消毒した石の上に乗せ、その肉を高温の蒸気で包み込む。するとお肉がまるで火で炙られているかのようにジュウジュウと音を立てて焼けた。
クズは周辺に薪になりそうなものが無い事を確認し、リュックから明かりの魔法具を取り出した。それから地面を均一に踏み固め、シーツを引く。一度空を見上げ、雨が振る気配がないことを確認し、荷物を広げて明日の準備を始めた。
ツルツルは野営地の周囲をぐるりと回り、近くに魔物の縄張りが無いかを見て問題が無いことを確認した。彼が戻るころには夕食は出来上がっており、ソーセージと肉と酒が用意されていた。
3人は黙ったまま黙々と食事をとり、皆が食べ終わるとカトレアが食事の片づけをして、地面に敷いてあるシートに横になって目を瞑った。ツルツルは既にその隣でイビキをかいて寝ている。
「じゃ、おやすみ」
「おう」
カトレアはクズに一言声を掛けて見張りを任せ、眠りについた。
こうして3人で少しずつ時間をずらし見張りをして一晩を越し、再び翌朝から歩き始める。それを繰り返すこと20回。途中で小さな町に数度立ち寄り食料を補給しながらも、漸く別の国にたどり着くことが出来た。
途中、襲い掛かってきた5人組の盗賊は、接近する前にカトレアの高温蒸気で蒸し焼きにされ身ぐるみを剥されて打ち捨てられた。カトレアも一年近くダンジョンで暮らし、探査者として凄腕のクズとツルツルから色々と手ほどきをされた結果、襲ってくる者に対して遠慮が無くなった。
カトレアもすっかり異世界の住人の仲間になっていた。




