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 食事処は一言で言ってしまうと、大型ショッピングモールにあるフードコートのような感じであった。通路兼食事場所のような広い場所にベンチやテーブルがポコポコと生えており、壁際には多種多様なお店が軒を連ねる。そのお店も木を刳り貫いて作られており、奥の方には厨房も見えた。鉄板の上で肉が焼ける香りが漂っており、三人は食欲を刺激されつつ、指定されたお店へ向かう。

 宿から示された食事場所はそういったフードコートの奥にある、一店舗ごとにちゃんと室内に入るタイプのお店であった。そして全ての部屋が個室になっており、明らかに格式が一段かい上がっていることが伺える。

 提供される料理はこの町の近辺で採れる動植物など、ジビエと山菜がメインであった。ただ味付けは非常に上手く出来ており、すべてぺろりと平らげる事が出来た。また、スペースエルフ提供のアイスクリームがあり、フタバとカトレアは大層喜んで、これを3杯ほどお代わりして食べた。

 

「まさか異世界でアイスクリームが食べれるなんて。それもチョコとバニラとストロベリー」

「ユウキ! 帰りにアイス買って帰るわよ!」

「僕の収納魔法に保温機能は無いから溶けてなくなるよ」


 やいのやいの言いつつ、食後のお茶もいただき、三人は大変満足してお店から退出するため部屋から出た。

 カトレアが扉を開けると、そこへ丁度給仕をしていた女性が通り掛かり、突然開いた個室の扉に驚いて「きゃっ」と小さく声を上げる。その拍子にバランスを崩した配ぜん中の食事がトレイから零れ落ちた。さらに、運悪く近くを通り掛かっていた男性の一人に料理が掛かってしまう。


「っ!? もっももも申し訳ありません!」


 給仕の女性がその場で土下座し、料理で汚してしまった男性に謝罪を始めた。カトレアはその男性の姿を確認すると、彼の耳が笹穂型になっていることに気が付く。なるほど、こやつがスペースエルフか、と思うのと、男性が腰から銃のようなものを取り出すのは同時だった。

 スペースエルフは銃に似た形状の道具を女性に向けて、引き金を引く。

 カトレアは地面に伏せたままの女性の襟首をつかみ、自分の方へ引き寄せた。「ぐげぇ」と女性がカエルのような声を上げる。それと同時にカトレアの背後にいたフタバがカトレアの横を通り抜け、即座にスペースエルフの武器を蹴り落とした。


「うぐっ」


 スペースエルフは手を抑えると同時に、腕に装着された道具にサッと手を翳す。すると、彼の周囲に半透明の膜が現れた。フタバの追い打ちの蹴りはこの膜にバチリ、と音を立てて弾かれる。


「いったぁ!? びりっと来た!」


 フタバは即座に距離を取り、ユウキは部屋の中に隠れた。カトレアはぶら下げていた給仕の女性を背後に隠し、ユウキは彼女を部屋に引きずり込む。

 スペースエルフが持っていた武器は通路の先に転がっており、誰からも拾える距離にはない。そして、先ほどその武器から放たれたレーザーのようなものは、床に黒い焦げ跡を残していた。給仕の女性に当たっていたら、まず間違いなく大怪我どころか死んでいた可能性すらあった。


「宇宙エルフは随分と好戦的なんだな。間に合って良かった」

「私もいきなり女性に手を出すクズだとは思っていなかったわ」


 フタバは短剣をしまい、今度はちゃんと剣を引き抜く。

 スペースエルフはこちらをうっとおしそうに睨み付け口を開いた。


『地上を這う虫共が……』

『うわ。悪役のセリフじゃん。性格わるそー』

『っ!? きさま! なぜ我々の言葉が話せる!?』

「え?」

「え? カトレア、今なんていったの? スペースエルフの言葉?」


 フタバとスペースエルフは驚きの表情を浮かべているが、肝心のカトレアは自分が違う言語を喋ったことにすら気が付いていない。

 

「いや、今そこの宇宙エルフが『地上を這う蛆虫どもめ皆殺しにしてやる』って」

『そこまでは言っていないぞ! 小娘!』

「カトレア待って。私には『あヴぁりゅありゅららまるわ』みたいな感じにしか聞こえない」

「ええー」


 自分でも何が起こっているか分からないが、カトレアとフタバの様子を見て、スペースエルフは少しずつ後退を始めた。その顔には先ほどには無い、焦りのようなものが浮き出ている。


『逃げるの?』

『……貴様に話すことは無い』

「フタバ、どうする? 逃げるつもりだよ」

「とりあえず、そのまま逃がそう。流石に斬る訳にはいかないでしょ。残念なことに今は武器を持ってないし。幸い死人は出ていない」


 武器持ってたら斬るのか、とカトレアは思ったが口にはださない。

 スペースエルフは少しずつ通路に落ちている武器に近づいている。カトレアは気がつかれないように武器の周りを高温の水蒸気で覆い過熱しておいた。

 スペースエルフは武器の近くまで一気に駆け寄ると、アツアツに熱せられた武器を手に取る。そして盛大に火傷した。


「おああああっつぁぁぁぁ!?」


 カトレアは「ざまぁw」と内心で笑う。

 スペースエルフがあまりの熱さに武器を手放し、今度はカトレアの足元まで転がってくる。カトレアはそれをひょいと持ち上げ、銃のように構えてみた。カトレアの手は高温に熱せられた武器を持っても全く問題にならないほど丈夫だった。

 スペースエルフは銃を構えるカトレアを見て目を見開き、ゆっくりと手を上げる。


『やはり関係者か!? 誰の手先だ! 保守化か!? 強硬派か!? 俺を殺したところで、何も変わらんぞ!』

『何を勘違いしてるのか知らないけれど、とりあえずいきなり人を殺そうとするような悪い奴は捕まるべきだと思うな』

 

 カトレアは現実世界で実銃を撃った経験は無かったが、エアガンはそれなりに好きで、何種類か所持していたことがあった。そして部屋の隅に立てかけた鉛筆などを的にして遊んだこともあったため、今のスペースエルフとカトレアの距離くらいであれば、狙ったところに当てられる自信があった。

 そして、カトレアはこの宇宙エルフ産レーザービームを撃ってみたかった。

 男の子なら一度はあるだろう、銀行強盗から奪った銃で敵を制圧する妄想だ。アレを再現できている現状にちょっとテンションが上がっていた。

 カトレアは薄い膜を張ったままのスペースエルフの左足の膝に狙いをつけ、引き金を引いた。

 軽いバイブレーションと共に、光線が出射された。光線は膜を貫通し、スペースエルフの膝を打ち抜いた。


「ぐああああああああああ!!」


 崩れ落ちるスペースエルフと一瞬で彼との距離を詰めたフタバ。

 フタバの剣が牙突スタイルになり、スペースエルフの腕に嵌められた防御膜発生装置目掛けて突かれる。薄い防御膜に若干抵抗されながらも、フタバの牙突は腕の道具と、そのままエルフの手首も砕いた。さらに大きな悲鳴がスペースエルフから放たれる。だが、すぐにそれは収まった。


「ああああああああっっぐ!?」


 フタバが剣の柄でスペースエルフを殴りつけ気絶させた。

 成行を見守っていた野次馬のざわざわとした声が聞こえ始める。そこに、良く通る大声が響いた。


「私達は探索者金一等級の者です! みなさん、落ち着いて行動してくださいね! そこの人! 外に走って警備の人を読んできてください!」


 カトレアの背後からユウキが足早に出てきて、近くの野次馬の一人を指名する。それから収納魔法を使い多様な拘束具を取り出すと、スペースエルフを手早く拘束。最後にポーションを彼の怪我の部位に振りかけ、残りは無理やり口に突っ込んで飲ませた。

 カトレアが後ろの部屋の中を覗いてみると、ぽかーんとした表情で固まっている給仕の女性がいた。


「もう大丈夫ですから、安心してくださいね」


 カトレアがそう言うと、女性は何故かブンブンと首を振り、パクパクと口を何度も開け閉めして、しばらくしてから漸く声をだした。


「ダメです! 彼らに手をだしては! 彼らは集団で」

 給仕の女性が話をしている途中で外が騒がしくなり、野次馬たちが無理やり押しのけられる。現れたのはこちらが到着を待ち望んだ警備員ではなく、SFチックな戦闘服と顔をすっぽりと覆うヘルメットを身に着けている謎の集団であった。男達の手にはライフル型の明らかに銃と分かる物が握られている。そしてそれらの銃口を躊躇なくカトレア達に向けてきた。

 ユウキが慌てた様子でカトレアの背後に隠れ、フタバも警戒した様子で重心を落とした。

 カトレアは即座に高温水蒸気を発生させ、男達を包み込む。だが、全く苦しむ様子もなく、銃を打ち始めた。フタバは飛んでくる光線を剣で弾き返し、カトレアは真正面から直撃弾を浴びる。服がボロボロになっていくが、やっぱり体に傷は付かなかった。


 カトレアは水球を浮かべると同時に向かって連続で出射する。彼らのレーザー兵器よりも速い連射スピードで次々と撃ち込む質量攻撃だ。

 純粋な水の質量&物量攻撃に耐えかねたのか、彼らは体勢を崩しながらも一度壁の裏に隠れた。その間にフタバは地面に横たわるスペースエルフを捕まえてカトレアの後ろへ持ってくると、先ほど自分たちがご飯を食べていた部屋に隠れた。そしてカトレアも同じように部屋に隠れる。

 フタバはスペースエルフの首に短剣を突き立て、宣言する。


「こちらは金一等級探索者だ! こいつの命は預かった! 話を聞け!」


 それは犯人が追い詰められたときに行動するやつだ、とカトレアは思わなくもなかった。しかし何も言わない。なぜならば、こんな面白い展開は狙って起こせるようなものじゃないからだ。

 カトレアは今の状況を楽しんでいた。自分が絶対にケガをしない自信があるからこそ出来る思考である。


『愚かな人間共! その御方を解放しろ!』

「カトレア。翻訳して。武器を下ろせ! 話し合いだ!」


 フタバの言う通り、相手の言葉とフタバの言葉を通訳する。だが、相手のSF兵士達はこちらを見下しているのか、話し合いをする意図はないようで、どんどん要求が過激になっていく。どちらかといえば、時間稼ぎをしているようにも思えた。

 どうやらそれは正解だったらしく、ゾロゾロと団体さんが追加で現れていた。皆が皆、SFっぽい戦闘服にSFっぽいライフル型の武器などを持ち込んでいる。大型の盾もチラリと見えた。

 フタバはその様子にお行儀悪く舌打ちをして、寝ていた拘束済みのスペースエルフを叩き起こす。


『っぐっ……くそ! 離せ! 貴様ら、こんなことをしてタダで済むと思うなよ!』

「カトレア。こいつにあいつらを説得して話を聞かせるように言って」


 フタバはそう言うと同時に、スペースエルフの片手の指を一本握り、そのままペキリと軽い音を立ててへし折った。絶叫が響き渡り、通路の奥から『マリク様!!』という悲鳴とも怒号ともつかぬ声が聞こえた。


『あそこで殺気立ってる同胞たちに話し合いをしろと伝えて欲しいです』

『誰がそんな話を信じるか! 貴様ら保守派の手のもああああああ』


 また一本、フタバが指をへし折った。

 スペースオークがフタバを睨み付けるが、フタバが笑顔で三本目の指を握ったところで顔に焦りが浮かぶ。


『待て! 分かった! 私が話してみる! だから、指を握るあああああああああ』


 フタバの拷問はスペースエルフの心を折るスタイルらしく、従順になるまで徹底的に痛めつけるようだ。

 スペースエルフはポキポキと折られていく指に体をブルブル震わせ、最後には大泣きしながらフタバに懇願し始める。

 通路の奥の兵士たちが突撃して来ようと大盾を構えてにじり寄ってくるが、これは水球の無限発射による質量攻撃で撃退しておいた。今いいところなのでこっち来ないで欲しい。


『私が悪かったです! 許してください! 私が説得しますからどうかこれ以上は!』


 フタバの前に跪き、関節を逆方向に折られた手で祈りを捧げるスペースエルフ。ユウキと給仕の女性はフタバの行動にドン引きしていた。

 カトレアはクズとツルツルから「こういう風にやるんだぞ」という拷問の英才教育を受けていたため、フタバの行動にうんうん、と頷いている。

 それからスペースエルフは通路の向こうの男達に大声で説得を始め、漸く話がまとまり掛けたその時。交渉相手の集団達が俄かに騒がしくなり、さらに怒号や銃撃戦の喧騒が響いてきた。こちらの人質になっているスペースエルフが叫んだ。


『何が起きている!』

『マリク様! 強硬派の襲撃です! お逃げください!』


 マリクと呼ばれた人質のスペースエルフは『貴様らの仕業か!』とカトレアを睨み付けるが、カトレアは首を横に振る。


『さっきから強硬派だとか保守派だとか、宇宙エルフの派閥争いとは関係ない。ただ単純い、お前が給仕の女の子を殺そうとしたから邪魔しただけだ』

『っそ、そんなことで私の邪魔をしたのか!?』

『そんなことってなに? 頭大丈夫?』

『我々には虫共とは違う大義があるのだ! 虫の一匹殺そうが、それがなんだというのだ!』

『よーしわかった。私が命とは何か、教育してやろう』


 カトレアはマリクの折れ曲がった指を再度握ってやる。ぴぎ、と悲鳴を上げ、顔を強張らせるマリク。だが、マリクはカトレアを見て顔を強張らせたわけでは無かった。


『転移弾だとぉぉぉおお!?』


 通路の奥から色違いの戦闘服を着た集団がこちらを覗いていた。そのうちの一人が肩に筒状の物を抱えている。

 火炎と共に筒先から飛び出してきたものは、カトレアの目には虹色に輝く大きなガラス球に見えた。

 それは猛スピードでカトレアに直撃し、爆ぜた。


 カトレアの見ている世界が、ぐるん、と回った。


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