018
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マッシロケーの町は結構な騒動になっていた。
なぜならば、カトレア(邪神バージョン)がクズとツルツルの死体を警備兵から無理やり奪取する際に、水魔法で大勢の警備兵及び冒険者等を失神させていたからだ。追っ手も悉くやっつけてしまい、フタバとユウキとカトレアが町に近づくころには殺気だった兵士が百人近く集まっていた。
それをフタバとユウキが金一等級の探索者カードを見せて黙らせ、さらに荷物の中から羊皮紙のロールを取り出してそこに押された印を見せると、兵士たちはフタバ達に敬礼をして解散していった。
「さて。それじゃあまずは着替えに行きましょう。宿に案内してちょうだい」
「あ、はい。こっちです」
カトレアは先ほどのやり取りについて何をやったのかを道中聞きながら宿に案内した。二人は「色々としがらみもあるけど、権力でねじ伏せた」と言葉を濁した。カトレアもあまり詳しく聞かない方がいいかな、と気を利かせて、この話は宿に到着する頃には過去のものになった。
クズとツルツルとカトレアの三人はかなり稼いでいたため、宿泊する宿のグレードも相当に高い。何よりもカトレアが「汚いトイレは絶対にノー!」という条件を付けていたため、どうしても宿のグレードが高くなってしまうというのが正直な理由だった。
フタバとユウキも宿の様子を見てここに泊ることに決めたようだ。それなりの日数の宿泊費を先払いしていた。
カトレアは部屋で着替えを済ませ、フタバとユウキの待つ一階の食堂にやってくる。食堂には別料金で入れる個室もあり、カトレアはそちらに案内された。
カトレアが席に着くと、早速フタバが話を切り出す。
「さて。まず自己紹介をしましょうか。私は探索者金一等級のフタバと言います。転生者です。日本では女子大生だったけれど、ホームで誰かに突き落とされておそらく死んだはずよ」
「僕も転生者です。同じく探索者金一等級のユウキと言います。僕も大学生で、恥ずかしい事に死因はマンションの階段から足を滑らせたことだと思います」
「私は異世界旅行者のカトレアと言います。本名をお伝えすることが出来なくて申し訳ありませんが、こちらの世界ではカトレアとお呼びください。まだ自分でもよく分かっていないことが多数ありますが、おそらく私の体には神もしくは邪神と呼ばれる方が宿っていると思います。この世界に来て2年ほど経過してます」
カトレアの自己紹介の途中でフタバが手を上げた。カトレアが「どうぞ」と言うとフタバは眉間を手で揉む。
「異世界旅行者って何?」
「あー。えっとですね、皆さんの世界には異世界旅行って無かったですか?」
「聞いたことないわ」
「そうですか……そうすると、皆さんとは違う世界線の日本から私は来たようですね。ちなみにですけれど、日本の首都はどこでした?」
「私のところは東京ね」
「え、そうなの? 僕の所は大阪だよ。みんな同じ所から来てるのかと思ってた。召喚者はだいたい東京が首都って聞いてるけど」
「そうですか。私の世界では岐阜が首都でしたね。なので皆さん違う世界の日本からやってきているようですね。それで、異世界旅行というのは、私も科学的な詳しい理論は分からないのですが、すごく簡単に言うと、別の世界線に自分の体を転移させる技術があってですね、それを利用して異世界を旅するのが異世界旅行です。日本では海外旅行よりもメジャーで、外国人観光客にも人気なプランだったりするんですよ」
フタバとユウキはカトレアの話を聞いて、頭を振った。
「えっと、すごくとんでもない事を言っている気がするんだけれど、異世界転移が普通に誰でも出来るってこと?」
「ええ。旅費によって行ける世界が結構違いますが、数万円で誰でも異世界に旅行に行けますよ。オプションで往復できるプランも付けれたりします」
「カトレアの世界って、私からすれば考えられないような世界ね。異世界転移なんて、物語だけの話だったわよ」
「異世界転生している僕たちが言っても、なんだかなーって感じだけれどね」
ここで一度各自が料理を注文し、少しばかり他愛の無い歓談を挟んだ。そして料理もある程度食べ始めた頃に、カトレアは話を切り出す。
「私の中にいた神様から話は少し聞いているかと思いますが、クズとツルツル。私の仲間を殺した犯人を捕まえたいです」
「証拠はあるの?」
「ありません。ダンジョン内で冒険者に殺されそうになり、それを返り討ちにした時に雇い主の情報を得ました。その冒険者はダンジョンで殺したので死体はもう無いでしょう」
「となると知らぬ存ぜぬで捕まえるのは難しいかもね。正式には」
「私もそう思っています。ですので、私は勝手に復讐しようかと思っています」
「それをすると、間違いなく犯罪者になって追われる身になるわよ?」
「それも覚悟の上です。人間の国で追われるようになったら、亜人の国に行ってみようと思います」
フタバとカトレアのやり取りを聞いていたユウキが立ち上がり、手を目の前でクロスしてバツ印を作った。
「ねぇちょっとまって。いきなり話が殺伐としすぎなんだけど。どうして殺す前提で話が進むの? もっと穏便にいこうよ」
「いえ、あまりフタバさんとユウキさんに手伝っていただく話でもないので。これは私の中でのけじめですし、冒険者としてやられたらやり返すという仲間からの教えでもありますから」
「カトレアさん覚悟決まりすぎなんだけれどなんなの? カトレアさんの世界は戦闘狂ばっかりなの? 血の気多すぎない?」
「無実の罪で仲間を殺されたらこのくらいしますよ?」
ユウキとカトレアが言い争いになりそうだったため、フタバが間に入る。
「はいすとっぷー。私達はあくまで部外者なので、カトレアさんの復讐についてとやかく言う権利はありません。カトレアさんがその犯人をぶっ殺してやるって決めてて、その先の逃走経路まで用意しているなら、どうぞご自由にと私達は笑顔で送り出します」
「ちょっと! フタバ!」
「でも、カトレアさん。そんな簡単にスパっと殺しちゃって、仲間を殺された恨みが晴れますか? どうせなら、生きているのが嫌になるくらい苦しませてやりませんか?」
「フタバ何言ってるの!?」
ユウキが驚いて立ち上がり、机の上にあった水のジョッキを盛大に零した。慌てるユウキをよそに、カトレアとフタバはじっと見つめ合い、それからどちらともなく笑みを浮かべる。
「どういう作戦ですか?」
「『バレなきゃ犯罪じゃないんですよ』作戦です」
「いいですね。やりましょう」
フタバとカトレアが握手をする。その様子を唖然とした顔でユウキが見ていた。




