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015

「おう。遅かったな。迷ったか?」

「もうあと数回層で地上なのに、どこで道草喰ってやがった」


 病院に付くと、クズとツルツルに軽口を叩かれた。だがカトレアは二人の姿を見て口をパクパクと開け閉めし、それから叫んだ。


「腕は!? 足が無いじゃない!」

「潰れた。命があっただけ儲けもんだ」


 クズは右腕が肩から無くなり、下半身不随に。ツルツルは左手が肘から先を失い、両足を膝下から損失していた。さらに片目を失っている。

 満身創痍と言える状態だが、二人とも元気そうに笑った。


「しかし、あの状態から無傷で生還とは恐れ入ったよ。擦り傷くらいつくかと思ったんだがな」

「ちょ、ちょちょ、私のことはどうでもいいよ! その怪我! 重傷じゃない!」

「死んでなきゃ大したことはない」


 クズはふん、と鼻を鳴らして笑った。


「いやいや! 大したことだよ。そんな、動けないじゃん! トイレもいけないじゃん!」

「大丈夫だ。こういう魔法具がある。クソもしょんべんも全部吸い取ってくれる」


 そういって布団を捲ると、クズの下半身がすっぽりと変な形の魔法具に包まれているのが見えた。

 カトレアはまだ何か色々と言いたそうにしたが、とりあえず二人が生きていることに安堵し、ため息を付いた。


「さて。カトレア。この二カ月、クズと話してたんだが、お前を奴隷から解放しようと思う」

「……突然なに? もしかして、自分達が足手まといになったから、『お前はもう自由だ』とか言って解放する気? 残念だけど、私はそこまで薄情じゃないよ」

「違う違う。そうじゃねぇ」


 ツルツルは苦笑いを浮かべる。

 ツルツルの代わりにクズが口を開いた。


「俺たちをこの状態まで回復させるのに、組合に預けた金をほぼ使い切った。あと数日したら強制退院だ。この股間を隠してくれている魔法具もレンタルだから返却になる。そうすると俺たちは自分で身動きも出来ない、クソを垂れ流すだけの役立たずだ」

「お前を俺たちの仲間と信じ、奴隷解放する。バニバニ族の生贄から助けられた恩は、俺たちを助けることで返却してくれ」


 クズとツルツルの言葉を聞き、カトレアはしばらく黙った末、大きくため息をついた。


「奴隷解放しなくていいよ。言われずとも、二人は私が何とかする。ダンジョン深層で特級ポーションでも見つけてこれば、部位欠損も全部治せるでしょ?」

「奴隷解放はする。奴隷のままじゃ銀等級に上がれないからな。カトレアには金等級を目指してもらう」

「その理由は?」


 ツルツルはにやりと笑い「抑止力だ」と答えた。


「今回の件で流石の俺たちも懲りた。金等級がパーティーメンバーにいれば、他の召喚者からもちょっかいを掛けられる確率は減る」

「もう一つ。金等級には特権がある。金等級同士が潰し合っても、罪に問われないってやつだ」


 クズとツルツルは悪い笑みを浮かべた。


「カトレアが金等級になれば、召喚者共に喧嘩を売って、希少な装備を奪い取ることも可能だ。そうすれば、ダンジョンに潜るよりも手っ取り早く稼げる」

「こわっ! そんなこと考えてたの!?」

「あの程度の魔法を無防備に受けちまって、いよいよ俺たちも落ちぶれたかと思っちまったんだ。カトレアが前に出なきゃ死んでた。だからさっさと金を貯めて悠々自適な引退生活というのを目指そうかと思ってな」


 クズとツルツルの引退生活というのはあまり想像できなかったが、本人たちは引退後の生活に乗り気だ。

 ツルツルは後身の指導をする教官になりたいと語り、クズは田舎に帰って畑をやりながら狩人になる、と言った。

 カトレアはまだまだこの先も3人で冒険を続けていきたいとは思ったが、二人があーだこーだと夢を語る姿を見て応援したくなった。それに、今回の怪我の原因の一端は自分にもあると感じていたため、カトレアはクズとツルツルの要望を全面的に受ける事にした。


「とりあえず、俺たちはしばらくは病院生活だ。深層に潜る前に、適当に金を稼いでくれると助かる」

「それなら、私が二人を探してダンジョンを彷徨ってるときに、全階層マッピングしたから、ちょっと見て欲しい」


 二人を探している時は目の前に写るモノすべてを破壊するだけの作業をしていて、そこに何があったかは全く覚えていない。宝箱っぽい物もあったかもしれないが、通行の邪魔だと破壊した気がする。手当たり次第に怪しそうな壁を殴ってぶち壊していたし、そこにいた変な魔物もワンパンで瞬殺してきている。

 クズとツルツルはカトレアが地図を描き起こすのを見て、若干青ざめた表情を浮かべた。なぜならば、未だに誰も到達したことのない40階層の地図まで出てきたからだ。


「お前、どこまで潜ったんだ!?」

「45階層。流石にマグマの池はクズとツルツルでも無理だと思って引き返してきた」

「当たり前だ、ばか! 俺は人間だぞ」


 クズとツルツルに地図を見てもらい、怪しい部屋をマークしてもらう。おそらくボスが居て、宝箱があるはずだと教えてもらい、集中的にそこを巡ることにした。とりあえず、まずは数日以内に20階層辺りの宝箱を開けて、治療費の支払いを行い、それから一週間ほどかけて40階層で特級ポーションなり、それが買えるだけの資金を得られるアイテムを持ち帰ってくることにする。もちろん、カトレア単独でだ。


「なんかあの出来後から二カ月経ってたとは思えないんだよね。必死で二人を探してて、ご飯も食べてないし、眠っても無いけど全然大丈夫だった」

「……お前、それはもう人間じゃないんじゃねーか? そういえば、翻訳機も無くしてる割に、流暢に喋ってやがるし」

「あ。ごめん。翻訳機壊した」

「……まぁいいけどよ。そういえば、あの鑑定スキル持ちの召喚者もカトレアを鑑定してからおかしくなってるし、案外カトレアが本当に邪神で、うっかり本体を見ちまって発狂って線があるな」

「ええー。こんな可憐な美少女を見て発狂とか失礼すぎる」


 自称、可憐な美少女カトレアは組合で貰った作業服のままシナを作ってポーズをとる。クズとツルツルはうへー、と嫌そうな顔をした。


「中身男がそのポーズしてると思うと、痛いを通り越して可哀想になるぜ」

「きめぇ」


 クズとツルツルの言葉にショックを受け、カトレアはため息を吐く。全く、TSの良さを分からないとは、可哀想に。


「兎に角、二人は私が無事に引退させるから任せて。それで私を助けてくれた恩は返すよ」

「おう。任せたぞ。まぁカトレアなら余裕だろう。なんたって邪神様だからな」


 ツルツルが冗談を多分に含んだ言い方でカトレアの背中を叩く。

 カトレアは病室を後にし、最低限の装備だけでも整えに町へ繰り出した。


「……邪神カトレア、ね」


 カトレアは小さく呟く。その言葉は自分でも驚くほどすとんと胸に落ちた。納得が出来た。そして思う。これは面白い展開になってきたなぁ、と。

 異世界旅行者が異世界到着早々に生贄になり、本来召喚されるはずの邪神が生贄の体に宿る。そして邪神が持つチート能力を手に入れた元生贄は、冒険者として大成していく。

 ふむ。物語のあらすじとしてはなかなか良いのではないか。

 カトレアは自分のチート能力を使って、どんなネタを作り出していこうかと上の空になりながら、町でダンジョン用の雑貨を買い集めた。



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