4.幼女、時間軸について考える
ちょっと遅くなったけど更新
明日はもっと早く更新出来るかな?
「配信?」
配信とは生放送的なアレだろうか、と思っていたが、どうやらあっていたらしい。仕事にしているってことら専業配信者なのかな? 僕の生きていた頃はあんまり居なかったけど、それってかなり凄いことなのでは?
凜音お姉ちゃんはいわゆるインフルエンサーで、数年で辞めたらしいけど実は元々テレビにだって何度も出演したことがあるくらいには結構有名なモデルだったらしい。引退に際してせっかくだからと配信活動を始めたところ爆発的に売れて、今ではこの配信活動だけで食べていくどころか割とそこそこ裕福に暮らせるくらいは稼いでるようだ。
……言われてみれば、確かにそこそこ、というか僕の前世の視点で見たら明らかに高級としか思えないくらいには良い所に住んでいるように思う。ちなみに、一軒家ではなくマンションである。
凜音お姉ちゃんが言うには、遮音性の非常に高い防音室のある、高所得の配信者や音楽関係といった人たちに特化したマンションを借りているらしく、輪廻お姉ちゃん以外にも有名な配信者や芸能人とかも住んでいるんだとか。
……家賃は考えたくない。
というか、凜音お姉ちゃん僕より凄くない? 確かに宮廷魔導師は国でも十数人しか居ないからエリート中のエリートなのは間違いないんだけど、僕なんか言われるままに魔法を教えて貰って、結果的に才能があったおかげでなれただけだし。
「早速今から始めようと思うんだ。で、どう?」
「いいけど……でも、僕あんまり喋るの得意じゃないよ?」
「いいのいいの。フーリちゃんは私の質問とかに答えてくれるだけでいいよ。それに、私結構有名だから、フーリちゃんを出せばいつかどっかから聞きつけて向こうから接触があるかもしれないしね」
凜音お姉ちゃんの言い分には一理ある。ユウトは日本に居た頃、結構ミーハーだったみたいだから、凜音お姉ちゃんのことを知っている可能性はそれなりにある。まだ推測ではないんだけど、恐らく地球に戻ってきた際、ユウトが異世界に転移した当時まで時間が巻き戻っていると思われる。送還の魔法陣をあんまり見ることは出来なかったけど、時間に関する何かが組み込まれているのは見えたし、何より戻ってきた時の地球が僕が死んでから7年経っていたことだ。
僕の今世での年齢は10歳なので、ここだけを見ると純粋に時間の流れが違うだけのように思える。
が、問題はユウトが異世界で過ごした時間は17年。実は、ユウトは異世界で僕が産まれるよりもっと前から既に異世界に居たんだ。つまり、前世の僕が死ぬより先の未来から今世の僕が産まれるより前の過去に転移してきた、ということになる。
ここで疑問点がひとつ。異世界に居る時、地球の時間の流れはどうなっているのか? だ。なにせ、時間の基準を僕にしてもユウトにしても矛盾が出来てしまう。だって、地球ではユウトにとっては僕は過去の人間で、逆に異世界では僕にとってユウトは過去の人間なんだから。
だから僕が導き出した答えとしては「そもそも時間の流れに基準は存在しない」と考えている。
分かりやすく言うなら、地球が1秒経っている間、異世界で流れた時間は1秒かもしれないし、10分かもしれないし、10万年かもしれないし、むしろ10年巻き戻っているかもしれない、ということだ。もちろん、逆も然り。
じゃあ何故ユウトが転移した時の時間まで巻き戻っているのかというと、一番分かりやすい時間がその時点で、そうなるように魔法陣を組み込んでいたから。もし時間指定をしなかったら、今頃ユウトは大昔か、もしくはかなり先の未来に行っていた可能性が高いし、僕も間違いなくユウトとは別の時間に飛ばされていた。
とはいえユウトが転移してきた当時の日本時間を知らない以上、まだ確定ではないんだけど、概ね間違っていないのではないかと思う。
まあ、結論を言えばテレビに出ていたくらい知名度のある凜音お姉ちゃんのことは、名前だけでも知っている可能性はかなり高い、ということである。
そういうことなら、と承諾する。僕にもメリットがあるし、お手伝いにもなる、らしいし。
今ウキウキで準備している凜音お姉ちゃんの姿を見るに、僕が配信に出ることに対しても否やはなさそうだし。誘ってきたのは向こうだけども。
「フーリちゃーん! 準備、出来たよ!」
おいで、と言われるままに凜音お姉ちゃんに近付くと、ぉむろにセットアップされたPCや機材に指さして説明を始めた。
前世が一応経営学部の大学生だったから分かるけど、これ普通の僕と同じ年代の子供が聞いても分からないんじゃ……まあ、子供扱いされるよりはいいけどさ。
「よし、じゃあ配信始めるよ。準備はOK」
「う、うん」
始まる、と思うと急に緊張してきた。正直、異世界で国王や王族、貴族に囲まれてひとり叙勲を受けた時より緊張しているかもしれない。
だけど凜音お姉ちゃんが指が止まるはずもなく。
「皆、こんばんは! 今日は予告通り雑談と、しばらく配信に参加することになったもうひとり、しばらくは一緒に配信することになった子を紹介するよ」
『わこつー』
『わこ』
『わこ……って、紹介ってもしかしてその隣の子!? めっちゃ可愛いんですけど!』
『今Amaneの家に幼女が居るってマ? どこから攫ってきたん?』
「誘拐じゃないから!! ……た、多分」
始まると同時に流れる大量のコメント。コメントに時折流れAmaneというのは凜音お姉ちゃんがモデルだった頃から使ってるハンドルネームで、それを今も流用しているとのこと。
それと当たり前だけど、僕のことについての言及が多い。っていうか、さっき予告でもうひとりの紹介って言ってなかった? 配信のことについて聞かされたの、ついさっきだから何も聞いてないんだけど?
あと、凜音お姉ちゃんは最後に言い淀んだってことは自覚はあったんだね。
と、おもむろに流し目で凜音お姉ちゃんが僕の方を少しだけ見る。僕が喋る時の合図は事前に決めていて、最初にやることは自己紹介だ。
緊張を押さえつけるように深く息を吸ってから、予め決めていた自己紹介を始める。
「こ、こんばんは。フーリ・エレメンタラーです。しばらく、お姉ちゃんの家に居候することになりました。その……よ、よろしくお願いしましゅ」
『あっ』
『噛んだね』
『可愛い』
『うーん、これは控えめに言ってAmaneより可愛い』
『顔真っ赤にして可愛い!』
……もしかしたら今日、僕はダメかもしれない。
恥ずかしさと流れコメントを観ないように顔を逸らしながら、しかしつい覗いてしまい『可愛い』『顔真っ赤で草』などといったコメントを見て余計に顔を紅くしてしまうのだった。
よろしければブクマ&ポインT(