1.幼女、日本に帰ってくる
ちょっと本気で頑張ってみようかなと思いました。
本日あと2話、更新します。
「うええ……さ、寒い……」
こっちの世界に戻ってきた時、日本は丁度12月だった。大体の人が年末に向けて浮き足立っている時期ではないだろうか。まだ12月半ばだというのに、周りを通りがかる人たちも、心做しか足取りが軽いような気がする。
まあ、年末は1部を除けば大体そこそこの休みを取れるし、学生にとってはクリスマスプレゼントやお年玉まで貰える嬉しい時期だから分かる。後は、昔の僕には全く縁がない話ではあったけど、カップルにとっても間違いなく特別な時期だろう。
だけど、これだけは言える。今の僕にとっては、間違いなく最悪な時期だ。
「というか、ユウトは本当にどこに行ったの……」
数日前、一緒に送還の魔法で帰ってきたはずの親しい友人の名前に、思いを馳せる。
異世界では散々付き合ってきた僕の相棒であり、主人であり、そして人生で最大の恩人でもある黒髪の勇者、ユウト。元は現代日本の学生であったユウトだったが、召喚魔法陣によって召喚され、そしてこことは全く違う世界、異世界で魔王を倒すための唯一の存在、勇者になった。凄くイケメンだし、日本に居た頃からスポーツ万能、頭もよく器量も大きいからさもありなん。
それに反して、顔も成績も運動神経すらも平凡、大学もとりあえず近いところに行ってしまえ精神で通っている大学生の僕は、学校の帰りの際、とある事故に巻き込まれて死んだ訳だが、どういうことか、異世界に転生してしまったものの、俺の意識が目覚めた場所は孤児院。つまり、転生先の僕は孤児だった。
しかも、性別すらも変わっていた。日本人の僕は男だが、異世界での僕は女の子だったんだ。
片や文武両道で異世界でも重要な役割を果たした勇者で、片や身寄りもなく、身分も底辺。挙句性別まで変わってしまった、孤児の僕。神様とやらはとことんまで人を平等にはしたくないらしい。厳密にはユウトは身体はそのままの異世界転移で、僕は姿かたちも全く違う異世界転生なんだけども。
幸運だったことと言えば、前世とは違い異世界での僕はかなり可愛らしい幼女であったことと、体内に内包する魔力の量が貴族、王族を含めても5指に入るくらいに多く、また魔力を扱う才能もあったようで、そのおかげで偶然通りがかったユウトに拾ってもらうことが出来、ユウトのコネで魔術を学ぶことが出来たことだろうか。
魔術の才能だけならユウトを超えているようで、それを師である宮廷魔導師団長から聞かされた時は、つい喜んで小躍りしてしまったくらいだ。その時、ユウトも含めた周りから暖かい目で見られたのは、一生の恥である。
その甲斐あって、最終的には史上最年少での宮廷魔導師にもなることが出来たのは凄まじい成り上がりだと我ながら思う。
もしユウトに会うことがなかったら僕は一生自分の魔力に気付かなかったかもしれないし、いざ孤児院を出たとしても食い扶持を稼ぐのに苦労して、身を売っていたかもしれない。そう考えると、元男の僕としては背筋が凍る思いである。
閑話休題。
一緒に帰ってきたはずのユウトが居ないのは、恐らくユウトだけは元々召喚魔法によって異世界に渡っていたから、送還魔法の際に元居た場所に戻されたからではないかと邪推する。対して僕は、あくまで魂だけが向こうに渡っただけの肉体は純正の異世界人であるから、適当な場所に飛ばされてしまったんだと思われる。
それだけなら僕の方からユウトを探せばいいんだけど、残念ながら探すすべがほとんどない。ユウトが何処に住んでいたのか、また苗字だったり通学している高校の名前すらも知らないので、探そうにもあまりにも情報がなさすぎる。魔法だって、それほど便利なわけではない。人や動植物を判別する魔法はあっても、特定個人を探す魔法なんてものはないんだ。ユウトは魔力量はそんなにある方ではなかったから、魔力の方面で探すことも出来ないし。
じゃあ、実家に頼る? ありと言えばありな気はする。ただ、問題は僕自身が本来ならもう死んでいる人間だということだ。当たり前だけど、前世と今世の僕に、共通点なんてものは全くない。いや、名前は前世でも今世でもユウなので、そこだけは同じなんだけど、いかんせんそんなものは偶然としか言えない。つまり、今の僕は「貴方の家の息子だったユウの生まれ変わりです」と証明出来る根拠がない。よしんば家族からのお墨付きを貰っても、今の僕の存在は国にとってはまさに問題の塊と言ってもいい。
出所不明。国籍も不明。戸籍なし。血縁なし。おまけに、前世持ちで魔法も使えるときた。もしこんなのが世間バレしてしまえば、間違いなく家族に迷惑をかけてしまう。そもそも、自分の正体を打ち明けるこころづまりがまだ出来ていない。いつかは、帰ってみたいとは思ってはいるけど……。
というか、こうなることが分かっていたなら地球に来る前に何か考えとけよとつくづく思う。
結果、今の僕はホームレス幼女という、中々パワー感溢れた状況なのである。帰ってきてから数日、食事は収納魔法の中の食べ物で。衛生面や寒さは魔法で何とか凌いでいたんだが、残念ながら今日の朝魔力が切れてしまい、すっかり空も暗くなった今現在に至るまで寒さをなんとか耐え忍んでいるという状態だ。修行かな?
魔力があれば空も飛べる僕だけど、なくなってしまえば少しだけ身体能力が高いだけのただの幼女でしかない。異世界にいた頃も、身体能力面は全て身体強化の魔法で補っていた。
なにせ、今の僕は実年齢でもまだ10歳だ。ユウトに拾われた時の年齢は7歳で、今思えばこんな年齢で宮廷魔導師によるガチガチにきつい指導を受けてかつ勇者のパーティメンバーとして旅をするなんて正気の沙汰ではない。なまじ、魔法の実力は既に国でも5指に入ってしまっていたのがタチが悪い。
まあとりあえず、寒さを誤魔化すために寝るとしようかな。なに、孤児院での扱いなんてもっと酷かったしこれくらいなら耐えられるだろう。
そんな訳でこっそり公園の遊具の中で隠れて寝た……はずなんだけど、起きたら知らない天井でした。
なんで?
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