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結局どういうことなのか分からないまま、その時は来た。
Janis Ian 「Will you dance」
音楽はゆっくりと流れ始めた。
音楽に合わせて回り出すと、軽いめまいがしてきた。そして眩暈は激しくなり、今度は耳鳴りがしてきた。ふらふらしてステップを間違えてしまいそうになる。
慎重に…。決して間違えないように…。
私はイアンさんに言われたように、今、ここに集中した。
窓の外に浮かぶ月は輝きを異様に増し、ぐるぐる回り出した。
―何?
おかしいと思うのは私だけではなかった。隣で踊る裕人も、その異常さに気付いていた。しかしそんなことを気にする余裕は私たちには無く、ただひたすらステップを間違わないように踊るだけだった。
目に映る周りの世界に惑わされぬように、私たちは慎重に、慎重に、間違えないようにステップを踏み続けた。
集中。今ここに集中。先の事も後の事も、心配事も不安も…何も考えず、今ここ、床を踏みしめる足の裏の感覚、回るたびに耳をかすむ僅かな風、ゆっくりと鼻から入って体中にいきわたる呼吸、次第に落ち着いてゆく心臓の鼓動…。
胸騒ぎしていた心もだんだんと落ち着いてきて、そしてステップを踏むにつれて魂の深いところにまで落ちていく気がした。
すると不思議なことが起こった。
踊る私たちの周りに銀河が現れた。
もの凄い解放感。
湧き上がる喜び。
包まれているような温かさ。
―何なの? これ…
もうそこには魂と体を隔てる感覚が無かった。自分と他人、物質と意識、そして世界を遮る壁が消え去っていく。
全ては繋がっていて、全ては一つ。星々が回り、私たちと共に喜びのダンスを舞い始める。
向こうから巨大な惑星がこっちへ向かってくる。何故か涙が溢れてくるような不思議な気持ち。それは紛れもなくもう一つの地球だった。
そして二つの世界が重なり合った
目の前に現れたのは朝陽だった。
間違いない。これは紛れもなく朝陽本人だ。
一人で踊っているそれぞれの前に、消えてしまった相手が現れた。
「朝陽…どこに行ったのよ。私、ずっと探してたんだから。」
「俺だって…。でも…こうしてまた会えた。」
頬から熱い涙が伝った。話したい事は山ほどあった。でも何も言葉にならない。
「朝陽、あのね、私…。」
溢れてくる気持ちをなんとか言葉にしようと語りかけた。
はっきりとしていた朝陽の輪郭がぼやけていく。
嫌だ! 行かないで! 私を置いてかないで!
過去と未来、方向は一定じゃないかもしれないし、一瞬一瞬、世界は無数に広がっているのでしょう。
だったら! 先に自分で未来を決めてしまったらいいのかもしれないですね…
イアンさんの言葉が浮かんだ。
私は心の奥底から叫んだ。
私は朝陽がいる未来を生きると決める!
明日、完結です。^^