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裕人の心は折れかけていた。
毎日ビラを配ったり、ネットで呼びかけたりしても何の手掛かりもつかめない。
もう無理なんじゃないか…。二人にはもう二度と会う事は出来ないんじゃないか…そう思いながら歩いていた。
どこをどう歩いたのか覚えていないが、気付いたらイアンさんのダンス教室の前に来ていた。
大きな門から中を覗くと、屋敷の中には灯りがついていて、踊っている影が見えた。裕人は吸い寄せられるように窓に近づいた。
すると!
中にいたのは確かにあの日失踪した女性がいた。はっきりと覚えている。何故なら彼女の夫は裕人たちのように毎日駅に立ち続けてビラ配りをしていたからだ。
話したこともある。お互い折れそうな気持ちを励ましあった。その男性のビラには確かにその女性の写真が載っていた。間違いない!
ビラ配りをしていた男性の前には失踪した彼の妻がいた。女性はダンスの輪の中にあらわれた空間に現れた。見慣れたこの街の風景がその輪の中にあった。
女性は自分の夫に気付いたのか、ハッとした顔をして、彼の元に駆け寄った。そして二人は向こうとこちら側の狭間で、一緒にダンスを始めた。
他の人たちも相手が現れて、次々と一緒に踊り出した。何人かは見覚えがある。あちら側の人達はやはり皆、失踪者だ!
ーここは一体何なんだ?
裕人は一体何が起こっているのか分からず、ただひたすらその光景を見ていた。
中から聞こえていた音楽が終わると、不思議な事が起こった。
ペアで踊っていたはずなのに、曲が終わると同時にそれぞれの相手が皆消えた。例の男性は床に泣き崩れていた。
―何が起こったんだ…
その時、後ろから肩を叩かれた。振り向くと、線の細い、今にも消えてしまいそうな女性が立って、裕人をじっと見つめていた。
それはイアンだった。
「あなたも探している人がいるのね…。」
「ここは何なんですか? さっきまでいた人…行方不明になった人達ですよね?」
「よかったら、あなたもここで踊りますか?」
イアンさんは優しく語りかけた。