表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Will you dance?  作者: まんまるムーン
2/8

2



 警察はあらゆる可能性を疑い調べたが、二人が電車に乗った後の行方は不明だった。駅の監視カメラも、乗車駅から二人が電車に乗り込む姿は写っていたが、降車駅では写っていなかった。



 あれから一年…事件の記憶も人々の心から消えようとしていた。私と裕人だけは、今でも二人を探している。



 ある日、裕人が変な事を言いだした。


「俺さ、社交ダンスを習いに行くことにした。」

「社交ダンス? 裕人が?」

「花音も一緒に行くんだ。」

「何それ? 私の意思は関係なく決定事項なの?」


彼と社交ダンスなんて全く繋がらないが、彼の目は真剣だった。一体どうして…?





 その教室は私たちの通う高校のすぐ近くにあった。


 背の高い白壁には蔦がびっしりと絡まって、壁に沿って歩いて行くと、重厚感のある鉄柱の門の前に来た。中には車寄せがあって、真ん中に大きな樹が植えられている。チャイムを鳴らすと門はギィギィと音を立てて自動で開いた。


 私と裕人は中へ入った。手前に円形の塔があってそこが入口になっている。玄関扉は真っ黒で、金の心中のドアノブが付いていた。


 明らかに最近建った建物では無い。かなりの歴史を感じさせる建築物だ。きっとずっと昔からここに佇んでいたのだろう。

 でも…こんな立派な洋館…


 今まであった?




「ようこそ。講師の谷原イアンです。」

中に入ると、講師らしき女性が微笑みながらそう言った。40代? 50代? その女性は年齢もよく分からないが、顔つきも日本人離れしているというか、少し外国の雰囲気も醸し出していた。


「…あの…本当に朝陽、いえ、いなくなった人と会えるんですか?」

私はイアンさんに聞いた。イアンさんはピタっと立ち止まり、一瞬ハッとした顔をして私を見た。

「…ここでは…」

イアンさんは込み上げる物を押えているかのように、少し苦しそうに見えた。

「…言葉は…あまり意味をなさないのです…」


―え? どういう意味?


「…確かに…その日が来れば…私たちはきっと不思議な体験をするでしょう…。」

イアンさんはそう言うと、これ以上聞くなとでも言うかのように、スッと先の方へ向かって行った。




 私たちは練習場になっている大広間へ行った。そこには既に多くの人が集まっていた。私は妙な違和感を感じた。なんだろう? 社交ダンスは習ったこと無いけど、普通ダンスって楽しそうな雰囲気じゃないの? しかしそこに漂っているのは、淋しさ…悲しさ…、そういった類の想いが満ち溢れていた。



「みなさん、ではレッスンを始めます。」

イアンさんは最初にホワイトボードに注意事項を書き始めた。


1.途中退場は許されない。

2.間違えてはいけない。

3.今ここに集中しなければならない。



「この三つは必ず守ってください。」

イアンさんは厳しい口調で言った。



 その教室でのダンスは変わっていた。社交ダンスって普通、カップルになって二人一組で踊る物だと思うのに、ここでは一人で踊るのだ。



「皆さん、ステップを絶対に間違えないで下さい。必ずです!」

イアンさんは皆に声をかけた。


 ステップは簡単なものだったが、しかしその意味は強い。


 絶対に間違えないように? たかだか趣味のダンスで少しの間違いもダメだなんて…おかしくない?





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ