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あの日、二人がいなくなってから一年が経った。
高校に入学して、最初の席が近くだったのもあって、私たち四人はすぐに仲良くなった。そして私、荻原花音と吉川朝陽、黒田裕人と新島小春は、それぞれ付き合うようになった。
あの日はテストの最終日で、午後から朝陽とカフェに行こうと約束していた。しかし私たちは些細な事でケンカしてしまった。今ではケンカの元となった原因すら覚えていないほどの些細な事。そんなつまらないことで、こんな未来がやってこようとは、その時は夢にも思っていなかった。
私は朝陽に酷い言葉を浴びせてしまい、怒った朝陽は私を置いて帰ってしまった。小春は駅へ向かっている途中、朝陽と偶然一緒になった。ただならぬ様子の朝陽から事情を聞いた小春はすぐに私にメッセージを送ってきた。
”朝陽と仲直りしなくていいの? 朝陽、そーとー落ち込んでるよ”
スマホをじっと見てると罪悪感と自己嫌悪が込み上げてきた。もし今日が人生最後の日だったら、そう考えると胸騒ぎがしてきた、その時、朝陽からもメッセージが来た。
”月がすごいよ! 空見て!”
―月?
私は空を見上げた。別にどこといって変わったことの無い昼間の存在の薄い月だった。しかし、その月を見ていると、何故か分からないけど、次第に不安にかられてきた。
ー朝陽に会わなきゃ! 会って素直な気持ちを伝えたい!
気が付くと駅に向かって走っていた。もう朝陽は電車に乗っているかもしれない。私は無我夢中で走った。力の限り全速力で駆けた。電話とか、後で会って話すとか、いろいろ手段はあったかもしれない。だけど、その時私は変な胸騒ぎがして、今、絶対に朝陽に会わなきゃならない、としか考えられない自分がいた。
駅が見えた。私はポケットのスマホを出してICアプリを開くと、改札に向かって猛ダッシュした。階段を駆け上がってホームに来ると、電車には既に人々が乗り込んで、ドアが閉まろうとしていた。電車の中のドアの前に朝陽がいた。その横に小春も立っていた。
「朝陽!」
私は叫んだ。
朝陽は私に気付いてこっちを見た。私は閉まるドアに乗り込もうと走った。しかし数メートルを前にドアは無情にも閉まってしまった。肩を上下させ息を切らしながらドアの向こうの朝陽達を見た。朝陽はスマホをこっちに見せて指さしをしながら何か言っていた。ポケットに入れていたスマホが鳴った。朝陽からメッセージが来た。
”花音 俺も言い過ぎた ごめんな やっぱり俺たち楽しく笑ってたいよ…”
―朝陽…
嬉しさが込み上げてきて目が潤んだ。人差し指で目の端に浮かんだ涙を拭った。
朝陽からのメッセージに返信をしようとした時…
花音 俺も言い過ぎた ごめんな やっぱり俺たちーーーーーーーーー
花音 俺も言い過ぎた ごめんーーーーーーーーーーーーーーーーーー
花音 俺もーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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消えた…
朝陽からのメッセージが跡形もなく消え去った!
―どうして? 通信障害?
私は途方もないない不安に駆られた。
それを最後に、二人は消えてしまった。