涙の昼食はエンドレス
うっかり腹ペコ不審者二人組を昼食に誘ってしまったぼくだけど、今は少し後悔しています。
ハルトムートさんたちも、すごい勢いで食べ始めた二人に負けじとガツガツおにぎりを食べていましたが、二人の異常な様子にピタリと手を止めてしまいました。
うんうん、その気持ちわかります。
だって、二人とも最初は「おいしい」「うまい」って上機嫌で食べていたのに、徐々に目が潤んできてグスグスと鼻を鳴らして、とうとう号泣しながらもおにぎりは口に次々と運んでいくという有様。
泣くほどおにぎりがおいしい? いや、なんかもっと違う理由がありそうです。
「なんだ、こいつら」
ハルトムートさんもドン引きしている二人ですが、ベテラン冒険者であるハルトムートさんから見ても、二人はかなりの実力者で種族的にもあまり見かけない組み合わせらしいです。
「元々、ドラゴニュートは他種族とは関わらないからな。考え方もそうだが実力も違い過ぎる。下手したら神の一族と崇めている地方もあるぐらいだ」
「ほへー、神様ですか?」
「あの嬢ちゃんも、突然変異じゃなかったらあの魔力量……、エルフの純血いや、ハイエルフかもしれないな」
「わー、ハイエルフですか?」
ハルトムートさんの言葉に間抜けな返事をするぼくですが、もう二人の食べっぷりと泣きっぷりに唖然呆然なのです。
ビアンカさんも競い合うように食べていたのに、今はテントの端で恐ろしいものを見る目で二人を見ています。
ディータさんは最初、「甘い物は出さないほうがいい」とかスイーツ渡さないと目がギラギラしていたのに、あんまりな食べ方にそっと自分の鞄からクッキーを出して二人の前に差し出していた。
「オスカー、この後どうする?」
「そうですね。午後もダンジョンアタックするつもりでしたが、この二人を放っておけないでしょう」
ただ昼食を分けてあげるだけならいいけど、こんなにおにぎり食べて大号泣していたら、「食べて、はいさようなら」ってできないですよね?
「……理由ぐらいは聞かないと……だが、厄介ごとな気もする」
オスカーさんが手に持ったおにぎりに視線を落として、はぁーっと深いため息を吐き出した。
「だったら、今日はもうギルドハウスに帰ったほうがいいですかね?」
ぼくは、おにぎりだけでなく、少なくなったおかずも追加でお皿に出して思う。
二人の事情がオスカーさんが言うように厄介ごとなら、ダンジョンの広場なんて所で話していいものじゃないだろう。
ここだと、他の冒険者たちに丸聞こえだし、防音の魔道具で遮断してもいいかもしれないけど、そんな秘密ごとを話していると勘づかれたらゴロツキ冒険者たちに絡まれるかもしれない。
ハルトムートさんの見立てどおり、この二人が強者だとしても、ギルド職員がいる前でのトラブルは回避するにこしたことはない。
今日のダンジョンアタック中止にみんなの顔が少し曇るのは、新しいハズレドロップで作る料理を楽しみにしていたんでしょうね。
そして、手ぶらで帰るぼくを見た三人の小さなおじさんたちが喧しく騒ぐのを今から想像して、げんなりとしてしまった。
昼食を済ませ午後の休憩が終わった冒険者たちは、各々動きだす。
ダンジョンアタックに挑戦したり、ギルドの窓口に買取交渉に行ったり、鍛冶屋に武器や防具の修理を依頼したりと忙しい雰囲気が漂ってくる。
でも、ぼくたちのテントの中は静寂の中、咀嚼する音が満ちていた。
……いつになったらお腹いっぱいになるのかな?
ビアンカさんたちはオスカーさんの指示の元、ギルドハウスへ戻る準備を始めている。
ディータさんは馬車を取りに行ったし、ハルトムートさんは買取金をもらいにギルドの窓口まで行き、ついでにこの二人の情報を仕入れてくるはずです。
ぼくとビアンカさんはテントの中の物を魔法鞄にしまい、簡単なお掃除をしています。
……むむ、ぼくの生活魔法であっという間に掃除できるんだけど、ここでぼくの特異なスキルがバレるわけにはいかないので大人しく箒で掃除します。
サッサッと。
「……あのぅ、そろそろいいか?」
オスカーさんが二人の前に座って声をかけようとして数十回目、ようやく話しかけられたみたい。
「……っ!」
「……っぐ、あ、ああ」
急に話しかけられ口いっぱいのご飯が喉に詰まってしまったようなので、ぼくはちょうどいい温度の緑茶を差し出した。
ズズーッ。
お茶を飲んだ二人が途中でクワッと目を大きく見開く。
「「な、なんで緑茶まであるーっ!」」
そして、また二人の目からは滝のような涙が流れだしてしまった。
……あれあれ? ぼくたち無事にギルドハウスへ帰れるのかな?
オスカーさんたちと顔を見合わせ、ぼくは泣いている二人を見て途方に暮れるのでした。




