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屋敷の中

オスカーさんには、ぼくが思わず発した「お化け屋敷」発言が聞こえなかったらしく、そのまま鉄柵の門扉に手をかけた。


ガシャン!


…………。

お屋敷の敷地をグルリと囲む低い石壁に取り付けられていた立派だったろう鉄柵が……崩れ落ちました。

オスカーさんと二人で倒れた鉄柵を暫し見つめ、無言で鉄柵をまたいで敷地内に入ります。


「安心してほしい。屋敷はちゃんと直すつもりだよ。仲間が揃ったら大工仕事をしながらダンジョン攻略の準備をするんだ」


オスカーさんは、明るく笑ってズンズンと前庭を突き進んでいます。

前庭は、以前は綺麗に整えられていた花壇だったんだろうけど、今は土が剥き出しで草一本も生えていません。

馬車が通れる広い道が屋敷の玄関まで伸びていて、馬車止めまで整備されていたんだろうけど……悲しいかな剥き出しの土のせいで元花壇と道の境目がわかりません。


ぼくは、オスカーさんの後ろをビクビクしながら歩きました。

だって、目の前に建つお屋敷を近くで見ると怖さが倍増なんですぅ。

オスカーさんは大きな両開きの扉の前で足を止めると、パタパタと上着の胸、横、そしてズボンの脇、お尻の辺りを叩き始めました。

え? 何かの儀式でも始めるのでしょうか?

鎮魂の儀式とかじゃないですよね? うっ……怖いですぅ。


「あれ? 鍵はどこに入れたかな?」


とうとう、オスカーさんはポケットをひっくり返し始めました。

出会った町から三日間の旅の間に、ぼくはオスカーさんがかなりのおっちょこちょいで一人で生活させてはいけない人だと認識していましたけど、もしかして鍵を失くしました?


「……すまない、鍵は後で探すよ。裏から入ろう」


クルッと踵を返すとズンズンと長い足で歩き出すオスカーさんの後を、ちょこちょこと小走りで追い駆けます。


「鍵がなくても入れるんですか?」


「裏の勝手口の扉は薄い木戸だったから、壊せば入れるだろう」


得意気に教えてくたけど……それって強盗の手口です。

しかも、壊した木戸は直さなければいけません。

あれ? 今日からここでぼくらは寝泊まりするんですよね?

眉をしょぼんと落とした情けないぼくの顔を見たオスカーさんは、励ますように頭をガシガシと撫でてくれます。


「大丈夫だ! 木戸ぐらいすぐに壊せるから」


珍しく満面な笑顔でオスカーさんは約束してくれましたが、ぼくの懸念はそれじゃない。

ぼくは眉どころか肩までズゥーンと落として屋敷の裏へと移動しました。


「うわっ」


屋敷の裏も荒れ放題でした。

屋敷の裏側もビッチリと蔦が這っていておどろおどろしい雰囲気で、しかもこちらの裏庭は草がボーボーと生えています。

オスカーさんの膝ぐらいまで裏庭一面雑草が生えていて邪魔です。

しかも、前庭よりも裏庭のほうが面積が広いっ!


草刈りをする自分の姿が浮かんできて泣きそうになります。

『器用貧乏』スキルで楽に草刈りできる方法はないのかな?

うっかりぼくが裏庭の惨状に現実逃避していたら、バキッと聞こえてきました。


「ほら、中に入れるようになったぞ、クルト」


「……ソウデスネ」


古くて朽ちかけの木戸が、オスカーさんの愛剣でご臨終になってしまいました。

ニコニコ顔のオスカーさんの上着の裾をキュッと握って、お化け屋敷……じゃなかったギルドハウスの中に、いざ!











屋敷裏の勝手口から入った部屋は、厨房でした。

この勝手口は、食料品の搬入口だったのでしょうか。

広い厨房と作業室だけど……どれぐらい放置されていたのか蜘蛛の巣があちこちにありますね。


「まずはお掃除ですかね?」


天井に張られた立派な蜘蛛の巣を見上げて言います。


「あー、魔道具いや日用品を揃えるのが先かも」


オスカーさんの困った声に首を傾げて、よく周りを見てみます。

そういえば、このお屋敷……物が少ない? 空っぽのお屋敷?


「あれ?」


ここのお屋敷は、元男爵様の別邸で、その後に商家のご主人がお客様の接待用として購入されたそうです。

男爵様はやはり元は商人で、いわゆる爵位をお金で買ったというか、つまりそういう手口で爵位を得られた方だったので、貴族街の中にお屋敷を構えることができなかったそうです。

それでも稼いだ財を見せつけるように貴族街に建っていてもおかしくないお屋敷を建て豪遊してみせた。

そのことがさらに貴族社会で浮いた存在となり貴族たちに無視され続け、やがて男爵位を返上し他国へと移っていったとか。

そのあとの商人も貴族の接待用としてお屋敷をフル活用したあと、他国に商会の拠点を移すためこのお屋敷など諸々の不動産を売却した。


「ああ……、商人らしいですね」


ぼくは厨房から作業室、その扉から玄関ホールまで移動してポツリと漏らす。


「?」


貴族出身のオスカーさんには、わからないだろう。


家屋の売買のとき、だいたいは家具付きで売りに出される。

平民であれば、引っ越しの際に思い出の家具などは持っていくかもしれないが、大きな家具の移動はその分お金がかかるから、あまりしない。

貴族であれば、その家具さえも財産であるし、先祖代々の由来などであれば持っていくであろう。

でも、このお屋敷みたいに一切合切全てを持っていくことはしない。

なぜなら、貴族が売りに出した屋敷の中身が空だった場合、周りは「金の工面のため」に売ったと思うし、「爵位を奪われるほどのことをした」から没落したと思われる。

貴族にとって評判は大事だ。

面子が保てなければ貴族として貴族社会で生きてはいけない。

なのに、このお屋敷は大きな家具どころか灯りの魔道具や銀食器などもない。


「前の持ち主の商人が売ったんでしょうね」


元は貴族が買い集めた質の良いものだから、高い金額で売れたんだろうなぁ。

他国に拠点を移す商人なら、不用な家財道具を持ち運びしやすいお金に代えただけの感覚だろうし。


「買うときに下見はしなかったのですか?」


オスカーさんは目を少し大きく見開いた。


「いや……私と幼馴染で下見はしたのだが。他の二人が乗り気だったので、私は正直よく見ていないのだ」


「ああ……そうですか……」


ぼくは、ガックリと肩を落とした。


オスカーさん……詐欺とかにあいそうで、ぼくは少し不安です。



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