三人の小さなおじさん
今日から一人……じゃなかった、レオと二人部屋です。
こんなときにオスカーさんと部屋が別々になってしまうなんて!
ギルドの名前も決まり、無事に初級ダンジョンの許可証もゲットできて、ギルドハウスのリフォームも予想以上の出来で、作った料理はみんなに喜んでもらえて……完璧な一日で終わるはずだったのに。
なんだなんだ?
なんでオスカーさんは、ぼくに「一緒にダンジョンに行こう」って誘ったんだろう?
しかも、明日は出来立てホヤホヤの地下の魔法訓練場でぼくの魔法を確認したいって……。
「ぼくよりレオの魔法だよ。攻撃系水魔法の初期レベルはほとんど使えるのに」
そう、レオはぼくと一緒にギルドハウスのあちこちをお掃除しているうちに、水魔法の初期レベルをほとんど使えるように進化していたのだ!
【ウォーターボール】も【ウォーターショット】も【ウォーターカッター】もバシバシ使えるのだ!
なのに、そのことをオスカーさんに話して、「ダンジョンにはレオを連れて行くといいと思います!」て推薦までしたのに。
「う、うん……。レオは止めておこう」
渋い顔をしてそっとレオを押し返してきた。
なんでも、初期レベルのダンジョンには成りたての冒険者たちが沢山押し寄せてくるので、目立つことはしないほうがいいらしい。
特にレオはオスカーさんが「レアスライム」と誤解していると思うんだけど、特別希少な種類のスライムだから、うっかり魔物ギルドに目を付けられると大変なことになると忠告されてしまった。
「た、大変なことって?」
「うむ。あいつらは少々、常軌を逸しているので、興味がある魔物と見ると無理やり連れ帰り研究の材料とする。下手したら解剖だ」
「ひいっ」
思わずレオと抱き合っちゃったよねぇ。
だって、ぼくの従魔として連れているスライムでも、危ないレベルの魔物ギルドなら平気で誘拐するって脅すんだもの。
「だから、レオをダンジョンに連れて行っても、レオの安全のために魔法を使っているところを見せるわけにはいかないんだ」
水魔法のスキルを持つスライムは、もっと体色が濃い水色となり、水色スライムからメイジスライムと呼び方も変化する。
まあ、レオの体色は変わらずキレイな水色で縁がキラキラしているだけどね。
「メイジスライムでもない水色スライムが水魔法を使っていたら珍しいなんてものじゃない」
スライムの常識が覆ってしまうからな……とオスカーさんに説得されたのでレオのお披露目は無くなってしまいました。
でも初級ダンジョンでも、人が溢れているのは一階から五階までで、十階を越えたら冒険者も疎らになるからレオでも魔法が使えるかもしれないと教えてもらった。
どうやらボス部屋が五階、十階、最下層十五階にある初級ダンジョンだけど、十階のボス部屋を攻略すると次の攻略まで暫し待たないと扉が開かない仕組みだからだ。
そうして、冒険者の数が減っていくし、もともと十階で粗方のドロップアイテムを取得して出ていく人も多いらしい。
人の目がなければレオの活躍の場も与えてあげられそうで安心しました。
……ぼくがレオのことを自慢気に話したのが悪かったのか、レオがダンジョンに行く気マンマンなんです。
明日、ぼくとレオはギルドメンバーの前で魔法を繰り出すことになってしまった。
まさか、ぼくが魔法を使えることがオスカーさんにバレてる?
「う、うーん。ギルドハウスのお掃除に生活魔法はバンバン使っていたけど、水魔法とかはオスカーさんの前で使った覚えはないんだけどなぁ」
ん? まさか、風魔法でチーズを粉末にするところをバッチリ見られていたとか?
オスカーさんからは、ダメ元でやってみてほしいと請われてしまったので、明日は魔法を使うことになってしまった。
どうしよう……魔法スキルもないのに、魔法が使えるってバレても大丈夫なの?
でも、ギルドのみんなに隠し事はしたくない。
よしっ! 明日はとりあえず魔法を使ってみよう!
「さて、覚悟も決まったし。レオ、もう寝るよ?」
新しい部屋に興奮してあちこちへ、ポヨンポヨンと跳ねて探検していた相棒をベッドへと呼び戻す。
「レオ? レオ……それ、なに?」
な、なんかレオの周りに三人の小さなおじさんがフヨフヨ浮いているんですが?
一人は、白い割烹着を来て小さな体と同じぐらいの大きさの長方形の包丁を担いでいる。
もう一人は、見たこともない白い服の上下に手に長くて細い棒を器用に二本持っている。
最後の一人は、レストランでよく見るシェフの恰好をしていて、その手には片手に泡だて器、もう片手にはボウル。
「「「やぁ! マスター」」」
「…………へ?」
どうやらこの小さな三人のおじさんは、ぼくの持っている『異世界レシピ』の機能のひとつ、和・洋・中の料理人らしい。
「んー、よくわからないけど、なんでぼくが怒られているのかな?」
小さなおじさんのうち二人に猛烈に怒られました。
なんでも、洋食ばかり作らないで他のジャンルの料理にも挑戦しろってことらしい。
あと、和のおじさんには「早く、調味料を揃えやがれ! 特に出汁だっ、出汁!」て怒鳴られた。
泡だて器とボウルを持ったおじさんは洋のおじさんで、ぼくが普段作っている料理はこのおじさんの担当になるらしい。
「マスターはデザートも作る。いいマスターです」
むふんっと胸を張られて褒められたけど、他の二人がギリギリしているから止めてほしい。
「いや、ぼくだっていろんな料理を作ってみんなに食べてほしいよ? でも、調味料が手に入らないんだもの」
和のおじさんが欲しい「出汁」もわからないし、中のおじさんが求めている「辛味」もいまいちです。
三人のおじさんはぼくを「マスター」と呼んでいるが、敬う気はさらさらないらしく、ぼくの言葉に肩を落とすとなにやら三人で輪になって相談をし始めた。
レオの体を抱いてぼくが思うことは、「そろそろ休みたいんだけどなぁ」ということと、「おじさんたち、ずっといるのかなぁ」という疑問だ。
ふうっと密かにため息を吐いたぼくへ勢いよく顔を向けた三人のおじさんは、満面の笑みでとんでもないことを要求してきた。
「「「マスター! ダンジョンへ行こう!」」」
……なんで、みんなしてぼくをダンジョンへ連れて行こうとするのさ。




