美味しい食事が最優先
ギルドマスターのオスカーさんが乾杯の挨拶をすると、ビアンカさんが我先にとオーク肉のステーキへフォークを刺した。
遅れまいとディーターさんがチキンステーキに手を伸ばし、オスカーさんが上品にスープを口に運ぶ。
ミアさんは珍し気に料理を一通り観察したあと、サラダをお皿に取り分けた。
みんなが一口食べ、カッと目を見開く。
「「「「おいしーいっ!」」」」
「レオ、みんながおいしいって。やったね!」
今日はギルドメンバーの一員としてテーブルの上で食事をしている親友のレオにガッツポーズをすると、レオもみょーんと触手を出して同じポーズを決める。
「なにこれー。お肉が柔らかい……一口サイズで食べやすい。ソースが濃厚で……幸せ」
「か、皮がパリパリ。肉がジューシー。玉ねぎのソースが甘くてさっぱりしている……」
「野菜がいっぱい入っていて食べ応えがあるし、トマトの酸味と甘みが全体の味をまとめていておいしい」
「んっ! 野菜がシャキシャキ! こんな複雑な形に切ってある野菜に卵の黄色が鮮やかで、見ていてもキレイだし。ドレッシングがピリッとして野菜の甘味が引き立つわ」
うんうん。
みなさん、なんでそんなに感想を言いながら食べてるんですか?
しかも、お互いの感想を聞いてさらにそっちの料理も食べてまた感想を言い合って……見ていて忙しない食事風景に困惑してしまいます。
おいしいかったら、レオみたいに無我夢中で食べればいいのに。
ぼくも自分のお皿に取り分けた料理をあむっと口に運ぶ。
「うわーっ! おいしい、これ!」
「「「「だろっ?」」」」
とりあえず、お喋りは後回しにして、お腹いっぱいご飯を食べたい気持ちです。
ほぼお皿が空になったところで、ぼくは食後の紅茶の準備と、冷やしておいたスイーツを用意します。
「手伝うぞ」
オスカーさんが椅子から立ち上がり紅茶を代わりに淹れてくれました。
「なに、これ?」
ビアンカさんが小さな壺のような容器に入った黄色の物体を胡散臭げに見ています。
「プリンです。えーと、卵を甘く蒸したお菓子です」
はい、どーぞとお皿の上に壺みたいな容器を乗せて一人ずつ小さなスプーンと一緒に渡していく。
「お、おいしいの?」
ミアさんが猫耳をぺしゃんと倒して、恐る恐る確認してきましたが、少なくとも食べ物だからそんなに警戒しなくても大丈夫ですよ?
「そろそろ、ギルドの話もしよう」
オスカーさんがお皿を片付けたテーブルの上にギルドハウスのリフォーム案が描かれた間取り図を広げる。
「ミアにも参加してほしい。このギルドハウスをリフォームしようと思っているんだ」
まず、ギルドで使うスペースとプライベートスペースを分けること。
ミアさんが働くのはギルド一階の部分で、二階にはギルドマスターであるオスカーさんの執務室を作ること。
一階の具体的な案は決まっていないので、ミアさんの意見を参考にしたいということ。
「うちの意見?」
ミアさんは自分を指さして首を傾げる。
「ああ。そもそもここに一番長い時間居るのはミアだからな。ミアの過ごしやすく動きやすい場所にしたい」
オスカーさんの言葉にビアンカさん、ディーターさん、もちろんぼくとレオもうんうんと頷いてみせる。
「そんな、うち、感動やわ。たかが受付風情ってバカにする人もいるのに」
「私たちは経験も浅いし、そのう、メンバーにも逃げられたギルドだ。せめて残った者で家族のようなギルドにしていきたいと思っている。そこに受付だからという差別はない」
「そうよ。ミアも同じギルドメンバーだわ」
ディーターさんも腕を組んで深く頷いた。
ぼくも参加しなきゃ! とレオを抱え上げて大きな声で主張する。
「そうです! レオだってメンバーなんだから、ミアさんも仲間ですっ!」
ほらっ、とレオをグイグイ目の前に押し出すと、ミアさんの尻尾がピーンと立った。
「そ、そうね。ありがと」
引き攣った笑顔でお礼を言われたけど、なんで?
ミアさんは改めてギルドハウスのリフォーム案に目を落とす。
「受付はカウンター式ですね。ここにテーブルと椅子を一揃い。あとは間仕切りをした小部屋を作って商談スペースに。内容と相手によっては小部屋で対応したほうがいいです」
その他にも、防犯設備、用意しておくポーション類やギルド支部との通信機器の設置など助言をしてくれました。
「……ミアはギルドの受付が初めてなのに、やけに詳しいわね? ギルドの教育にそういうのもあるの?」
ビアンカさんの質問にミアさんは答えるのに逡巡し、小さな声で「実は……」と今まで秘密にしていたことを話し出した。
「実は……うちの父ちゃん、昔は冒険者ギルドのメンバーだったんよ。それも高ランクギルドの。でも護衛任務で護衛対象を庇って怪我して引退したの。うちも小さい頃はそのギルドハウスに出入りしていたから、ギルドの設備をよぉく覚えてるんだ」
父親のことを内緒にしていたのは、元高ランク冒険者だとわかると父親を利用しようとする輩がいるからだとか。
「例えば、戦闘訓練をつけてほしいとか。ダンジョン攻略に付いてきてほしいとか。冒険者時代に縁があった貴族や商会を紹介してほしいとか」
そうなると、ミアさんとしては複雑な気持ちになるらしい。
確かに、ギルドが欲しいのは受付のミアさんではなくて、優秀な元冒険者の父親になってしまって、ミアさんとしては居た堪れないかも。
「でもね、父ちゃんは本当に怪我してダンジョン攻略とか魔物討伐は難しいんだ。今は護衛していた商会の倉庫番をしているし……。本当は、二人もメンバーが抜けてしまったから、うちの父ちゃんが入れればいいんだけど……」
ミアさんの声が段々と小さくなっていく。
「そんなことはいい。私たちはミアが受付でギルドを守っていてくれればいいんだ。ミアがいなければ私たちは仕事に行けないからな」
「そ、そうよ! ディーターだってミアがいればいいわよね!」
ビアンカさんは、ディーターさんの胸倉を掴んでグラグラと激しく揺さぶる。
そんなにしたら、ディーターさんが声を発することはできないと思う。
「みんな……。えへっ、ありがと」
ミアさんは満面な笑顔で顔を上げました。
「メンバーが抜けたことはイタかったが、どうもエッカルトたちはビアンカたちと気が合わなかったらしくてな……」
オスカーさんは言葉を選んでますが、エッカルトというオスカーさんの幼馴染たちは性根が悪い人たちだったと思うけど?
ミアさんも笑顔が一瞬で強張り、さらに顔を般若のように歪めました。
「エッカルトなんて地獄に堕ちればいい。あいつ、うちにしつこく誘いをかけてうっとおしかったんや。カトリナもうちのこと妬んでチクチク嫌味ばかり言いよるし」
「「あーっ……」」
ビアンカさんとディーターさんが「やっぱり」と悟った顔でオスカーさんからさりげなく視線を逸らす。
「そ、そうか。それは迷惑をかけた。すまない」
ズーンと落ち込んでしまったオスカーさんに、ぼくはため息を吐いてからプリンのお皿を勧める。
「ほら、これ食べて元気出してください」
「クルト。……えっ……と、毒見役じゃないよな?」
むっ! 失礼な!
ぼくはキュッと眉に力を入れて、無言でスプーンを手に取ると、プルプル揺れるプリンを一匙掬いオスカーさんの口の中へ放り込んだ。
「んっ! ぐぐっ」
咄嗟のことに目を白黒させるオスカーさんの表情が劇的に変わるまで、一瞬のことだった。




