ギルドメンバーと合流
早朝の乗合馬車広場は行き交う人で混雑していて、出迎えの人を探して右往左往している人とぶつかりそうになること数回。
おっとと、わぁ、危ない、とちょこまか動くぼくの頭の上では、レオが左にコロコロ、右にコロコロ転がっていた。
「ほら、クルト。危ないよ」
隣を颯爽と歩いていたオスカーさんが、クスクスと楽しそうに笑ってぼくの体をひょいと持ち上げる。
なんだか小さな子供みたいで恥ずかしいです。
少し赤く染まった頬を両手で隠して、高くなった視線で待ち合わせの人を探すフリをした。
「オスカーさん。メンバーの人ってどんな特徴がありますか?」
「うーん、そうだなぁ。エッカルトとカトリナは外見は人族だし、持っている武器も剣と杖だしなぁ。ああ、ディーターとビアンカの方が探しやすいかも」
オスカーさんの話では、ギルドが仲介して知り合ったメンバーは男女一人ずつ。
男の人はタンク役の大柄な熊の獣人で寡黙なタイプ、女の人は小柄な体で斥候役、手先が器用でダンジョン内の罠解除にとっても役に立つ人だそう。
しかし、大柄な人も小柄な人も沢山いて、誰がディーターさんだかわからないよー。
「ははは、とりあえずディーターたちがいた町からの馬車の停車場まで行ってみよう」
「はい」
オスカーさんたちギルドメンバーは、バルツァー公爵領地内の違うギルドで一人ずつ一年間の研修期間を過ごしてきたらしい。
手紙でのやりとりはしていたけど、会うのは一年ぶりなんだって。
「もしかしたら容貌が変わっているかもしれませんね」
「ああ、そうだな。みんなあの頃より成長していると思うぞ」
オスカーさんはぼくの言葉をとっても前向きに捉えてくれましたが、ぼくは単純に男の人は髭がボーボーになっていたり、女の人は洋服や化粧の趣味が変わっていたりしているのかなって単純に思ってたんです。
そうしたら、一年会ってないオスカーさんもメンバーの人に気づかないだろうなって。
「えへへへ」
急に誤魔化し笑いを浮かべたぼくを、不思議そうな顔で見るオスカーさんだったのだ。
乗合馬車広場を人波を縫うように移動して、ようやく目当ての停車場まで辿り着きました。
ぼく一人では絶対にここまで来れませんでした。
レオなんて誰かに踏みつぶされちゃったかも……ぼくの頭で優雅にくつろいでいるけどね。
「ああ、いたぞ。おーい、ディーター!」
オスカーさんは大きく手を振ってその人の名前を叫ぶ。
後ろを向いていた大柄な男の人が、オスカーさんの声に気づいてこちらに顔を向けた。
わっ! 怖い顔をした男の人だ。
ぼくは思わず首を竦めてしまう。
「よく来てくれた。馬車の移動で疲れたろう? ビアンカはどうした? 一緒じゃなかったのか?」
「ちょっとー! オスカーひどいんじゃない? あたしはここにいるわよっ」
ゲシッとオスカーさんの脛が女の人の細い足で蹴られる。
え? 元侯爵子息のオスカーさんの足を蹴った? 女の人が?
「アイタタ。ひどいな、ビアンカ。小さくて気づかなかったんだ、許してくれ」
寛大なオスカーさんは笑って許してあげるみたいだけど、ぼくが尊敬の眼差しでオスカーさんを見上げていたら、その女の人は両腕を組んで鼻をフンッと鳴らした。
「オスカー。あんた、あたしのこと小さいって言ったわね? もう、許さないわ」
ポカポカとグーに握った両拳をオスカーさんの体に打ちつけるが、当の本人は軽く笑っていなしてしまう。
「あははは。悪かった、悪かった」
女の人は「キィーッ」と言いながら、もう一人の大柄な男の人に羽交い絞めにされて止められていた。
「あら? そのオスカーの腕の中の子供……手紙に書いてきていた新しいメンバーの子ね?」
ガルルッと唸っていた女の人がようやくぼくの存在に気がついてくれました。
そう、ぼくは交通の安全のためにずっとオスカーさんに抱っこされていたのだ!
あー、恥ずかしかった。
ぼくはオスカーさんの逞しい腕をタップして下ろしてもらった。
自分の両足でしっかりと立って、親友のレオを頭からおろして腕に大切に抱えて、同じギルドのメンバーになる二人にご挨拶です。
「はじめまして! ギルド見習いのクルトとスライムのレオです。よろしくお願いします」
ペコリと深くお辞儀をします。
「あら、ご丁寧に。あたしはビアンカ。こっちはあたしと腐れ縁のディーターよ。よろしくね」
女の人――ビアンカさんは優しい声で自己紹介をしてくれた後、ナデナデとぼくの頭とレオの天辺を撫でてくれた。
なんだか、男の人――ディーターさんも恐々とした手つきでぼくたちを撫でてくれたよ。
しばらくその場で立ち話をしていたぼくたちだったけど、ディーターさんのお腹から物凄い音が轟いて驚いてお互い顔を見合わせてしまった。
「……すまん」
「いやいや。そうだよな。馬車の旅じゃ満足に食べるわけにもいかないよな。じゃ、ギルドハウスへ移動するか」
オスカーさんが楽しそうに、爆音の主であるディーターさんの背中をバンバン叩いたあと、みんなをギルドハウスへと誘った。
その途端、二人の顔が曇った。
「ああ……あの、ギルドハウス」
「そう、やっぱりあそこなのね」
ぼくは目をパチクリ。
さっきまで楽しそうに話していた二人が、まるで死地の旅へ誘われた人のような悲壮感を漂わせ始めた。
「心配しなくても大丈夫だぞ。このクルトがキレイに掃除してくれたからな! だいぶ見違えるハウスになったんだぞ」
オスカーさんが胸を張って主張してくれたので、ぼくも胸を張ります、えっへん。
レオもぼくの腕の中でみょーんと体を伸ばして主張しています。
「え? その子が?」
「いや、無理だろ」
速攻、否定されました。
ぐぬぬぬ、悔しい。
「オスカーさん! 早く帰りましょう。まずは見てもらうのが一番ですっ」
「そ、そうだな」
ぼくのキリリとした顔に多少たじろいだオスカーさんは、ディーターさんたちの背中を押した。
「さあ、エッカルトたちと合流して、ハウスへ急ごう。すぐにクルトが美味しいご飯も作ってくれるからな」
「「……」」
二人して無言で顔を合わせて心配顔ですが、そんなにぼくのお仕事は信用がないんでしょうか?
でも二人が気落ちしているのは、ぼくのせいでも、元お化け屋敷のギルドハウスのせいでもありませんでした。
「オスカー。実はエッカルトたちのことなんだけど……」
ディーターさんが一通の手紙をオスカーさんに手渡します。
「エッカルトたちはここには来ないわ。…………別のギルドへ勧誘されたのよ」
二人はオスカーさんの顔を見ないように俯きます。
オスカーさんは差し出された手紙をそっと受取り、凪いだ表情で丁寧に封を開けました。




