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「異世界レシピ」スキルで新人ギルドを全力サポートして、成り上がります!  作者: 沢野 りお
ギルド

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ミートボールのトマト煮

誰か助けて! と切実に願ったけど、助けは得られなかったから自力でどうにかしました。

ふーふー。

ぼくはいま、両手にナイフを握ったままキレイに磨かれた床に四つん這いになってます。

そして息が……息が上がる。


「なんで……勝手に、操作しちゃうの……レオの、バカ」


途切れ途切れのぼくからの批難にレオのツンとした雫型の先端がへにょりと倒れる。

レオが選択してしまった「自動手順」は、体が勝手に動き調理を行うものだったらしく、ぼくは両手にナイフをシャキーンと持つと、オーク肉の塊を叩いて叩いて、叩きまくってミンチ肉にした。

ものすっごく疲れた。

一心不乱に肉に向かい腕を振り払うぼくの様子は、傍から見ていたら危ない人だ。

腕の尋常じゃない痛みに、もう無我夢中で叫んでいたよ。


「キャンセル! キャンセルしてーっ。止めてーっ!」


半泣きのぼくの目の前に現れるいつもの半透明な画面。


――自動手順をキャンセルしますか?


迷いなくYESを選んだよね。

そして、暫しの休息を床に四つん這いになって取るぼくだけど、ギュッと握って振り回していたナイフが手から離れないよ。


「あー、でもお肉はミンチにしたし。あとは何をすればいいんだ」


疲れた顔を床から上げれば、半透明な画面からの次の作業の指示が出ている。


「なになに? 野菜の皮むきか……この痺れた手で?」


むむっと眉間にシワを寄せれば、文にはまだ続きがあった。


「スライムの手伝い 可……レオが? 野菜の皮むき? できるの?」


隣で画面を見ていたレオも不可解な文章に、やや丸い体を傾げさせている。

レオは水色スライムで汚水処理しかできない初期スライムのはず。

オスカーさんが「いいや、レオはレアスライムだ」って断言しているけど、じゃあなんの能力特化なのか尋ねたら黙ってしまった。

レオは毒も酸も吐かないし、鉱物のように固くもならない、魔法は使っているけどぼくのスキルの恩恵かもしれないし。

確かに、汚水だけじゃなくてお掃除に便利そうな物を食べさせたりしたし、ぼくと同じご飯を食べ始めたけど。


「さすがに野菜の皮むきは無理じゃない?」


両手にナイフを固く握って床に倒れているぼくにバカにされたとでも思ったのか、レオが隣で激しくジャンプをし、ポーンとぼくの体の上に登ってダンスをするように激しく動く。


「ぐえええっ。やめ、やめてレオ」


レオの熱意に負けて試してみましょう、スライムの野菜の皮むきを。

なんとか握ったナイフを手から外し、トマト煮に必要な野菜を並べます。


「芋とタマネギ。キノコ類はぼくが下処理をするからいいや。ト、トウモロコシ……できるのかな?」


レオの前に野菜を並べます。


「いいかい、レオ。食べちゃダメだよ。皮だけだからね!」


みょんとレオの体の左右から触手が出てきて、次々と野菜を取り込んでいく。

レオの雫型の体がボコンボコンと歪に歪んだり上下に伸びたりしているけど、本当に大丈夫?











「今日の晩ご飯も美味しそうだなぁ」


ギルド支部での講習を終えて帰宅したオスカーさんは、テーブルに並べられた料理の品々に目を輝かした。

ぼくもえっへんと胸を張ってみる。

足元でみょんと出した触手を腰に当てて胸を張っているつもりのレオもいる。


朝食のミルクスープと具材は同じだけど、夜はあっさりとした塩味のスープにした。

パンとサラダも用意したし、果物も食べやすい大きさにカットしてお皿に盛った。

お水にはちょっとだけレモンの果汁が絞ってあるから爽やかな口当たりだ。

そしてメインのミートボールのトマト煮。

ミートボールのお肉はオーク肉をぼく自らがミンチした肉々しい仕上がりで、少し大きめに丸めたよ。

野菜もたっぷりでキノコからの旨味が染み出ているはず。

トマトもじっくり煮込んだし、チーズをトロリとかけて見た目もバッチリ!

オスカーさんも一口食べたら、目を大きくしてガツガツと、でも上品に食べ進めていく。


「やったね! レオ」


もちろん、今日のぼくの優秀な助手でもあるレオのお皿にもミートボールのトマト煮は盛られている。


「本当に美味しいよ。水もうまいな……レモンか? さっぱりして口直しになる。それに……リンゴか? なんか皮のかたちが、ウサギなのか?」


ひととおり料理を口にしたオスカーさんは、並べられた料理をひとつずつ丁寧に見ていくとリンゴの皮がウサギの耳みたいに切り込みが入っていたり、サラダの野菜が花の形に切ってあったりと細工に気づく。


「すごいでしょ! みんなスキルから教えてもらったんです!」


「……へ?」


ぽけらっとした顔のオスカーさんを置いてけぼりに、ぼくは興奮気味に説明する。


レオがキレイに野菜の皮むきを終えたあと、ぼくはスキルの指示どおりに野菜を切っていった。


「くし切りってどんなの?」


でも野菜の切り方がわからず、ちっとも作業が進まないぼくにイライラしたのか、スキルの画面がちょっと大きくなって作業手順が文章だけでなく絵もついてきた。

その絵を見ながら野菜を切っていくと、サラダのきゅうりの飾り切りとかリンゴのウサちゃんカットとかが表示されて、真似して切ったのだ。

ぼくが面白がってスキルに「他にないの?」と要求したのもいけなかったかもしれない。

つい、あれもこれもと野菜をいっぱい切ってしまった……けど、細かく切ってスープに入れたらわかんないよね!

お水にレモンを入れたのもスキルからの助言があったからなんだよ。

オーク肉のミートボールも肉汁をしっかりと閉じ込めて、ふわふわにジューシーにできているでしょう?


「待て! 待て待て! いろいろ気になることもあったが、それよりも!」


ダンッとオスカーさんが拳でテーブルを叩く。

顔もギュッと顰めて苦渋を舐めているかのようだ。

あれ? さっきまでご飯おいしいーって上機嫌だったのに?


「スラ……レオが、野菜の皮むきをしたって?」


ギンッと鋭い視線を感じたけど、それよりもぼくの友達自慢をする、決定的タイミングです!


「そうです! 芋の皮むきは早いし芽をキレイに取り除いてるし、それでタマネギなんかは……」


「ああ……そう。そうか……。スライムは野菜の皮むきをしないって言っても、クルトには理解してもらえないんだろうなぁ」


今日は、久々に楽しい食卓でした!








そうやってレオと楽しくお掃除をして料理をして、オスカーさんが目を白黒させてと楽しい日々を過ごしていたら、あっという間に他のギルドメンバーが合流する日を迎えました。


「大丈夫だよ、クルト」


「は、はいっ」


前日にギルド支部でギルドマスター講習を終えたオスカーさんと一緒に、領都を守る防御壁沿いの乗り合い馬車広場に来ています。

ううっ、緊張するよー。

どんな人たちなんだろう?



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