二日目のお掃除終了
ああー、なんでオスカーさんはお屋敷の正面扉を壊してしまったんだ!
煙突の中に落ちてしまったスライムのレオを救出するのに、わざわざ裏手に回ってからお屋敷に入らなければならないなんて!
ダダダッと全力で走ってバタンと扉を開けると、泥だらけの靴でキレイになったキッチンの床の上をバタバタと走り抜ける。
もうもうと埃が舞うエントランスホールを抜け、暖炉がある応接室を目指す。
だいたい、魔石を利用した魔道具が発展しているんだから、時代錯誤な暖炉なんてなくてもいいのに。
お部屋の暖房は全て魔道具で行うから、薪を使う暖炉なんて貧しい平民だって使わないよ。
あれは、お金持ちが人に見せびらかすための調度品というか美術品の扱いなんだもん。
古王国時代の偉い将軍様のお屋敷にあった暖炉とか、美しい妃が幽閉されていた離宮の暖炉とか……正直、ぼくにはその価値はわからないよ。
ここのお屋敷にある暖炉もそうなんだろう。
「どうせ暖炉なんて使わないのにぃ」
ガチャッと応接室の扉を開けると、もわんと襲ってくる埃と……なんだこれ? あ、煤か!
「ゴホッ。ゴホゴホ。うわ、ひどいな。おーい、レオ? 大丈夫かー?」
スライムの体はポヨンポヨンだから弾めば落下の衝撃を抑えることができると思うけど、万が一衝撃が強くて弾けてしまっていたらどうしよう。
他のスライムじゃダメなんだよ。
ぼくの友達は、レオじゃないと。
「レオーっ? 大丈夫なのか? おーい」
煙突から物が落ちたせいだろうか、部屋中を真っ黒な煤が埃と一緒に舞い、視界がめちゃくちゃ悪い。
家具も何もない部屋だと知っているけど、念のために両手を前に突き出して障害物を避けられるようにしよう。
「レオーっ?」
喋れないスライムだから返事はないだろうけど、不安だからつい呼んじゃうよ。
あっちにウロウロ、こっちでウロウロしていたぼくの足に何かが乗ったみたいだ。
ほんの少しだけ右足に重みを感じる。
「レオ?」
屈んでその何かを両手で掴むと、ポヨンとした慣れた感触。
「ああー、よかった。怪我はないかい? 心配したんだよ、煙突に飛び込んでいくから」
しかも、勢いよくひゅんって真下に落下していくし。
ぼくの手の中に戻ったレオは雫型の体の両側からみょんと触手を伸ばして、ペチペチと両頬を軽く叩く。
触った感じもプルンとしているし、よく動いているから怪我もなく平気そうで……あー、よかった。
ぐうーっ。
「あはは。安心したらお腹が減っちゃったよ。レオ、ご飯食べに行こ」
ぼくのお腹がキチンと主張をしましたので、レオを抱いたままキッチンへと移動しましょう。
「あ……」
応接室を出て気づく、自分の体が煤まみれで黒くなっていることを。
「うわぁ。これはキレイにしないとな。【清潔】」
呪文とともに微かにさわやかな風が足元から頭の天辺まで吹き抜ける。
これでキレイになったはずだけど、なんだかお屋敷のお掃除で使っている【生活魔法】とどこか違う気がする。
うーんと頭を捻って考えてみるけど、答えなんて出るわけないよね!
そんなことは頭の片隅に追いやって、よしっと小走りでキッチンまで戻ったぼくの目に映るのは、クッキリと床に残った泥の足跡だった。
「ああー」
がっくりしちゃうよねぇぇぇぇぇ。
レオの触手がぼくの肩を「頑張って」と叩いてくれた。
ペロリ。
オスカーさんが買っておいてくれたハムがいっぱい挟んであるサンドイッチと野菜のミルクスープでお腹がいっぱいになりました。
一人でする食事は寂しいから、ミルクスープを少しレオにあげたら、飲んだあとにぴょんぴょん跳ねていたよ。
美味しかったんだね!
さて、午後はまたまた外に出てお屋敷の周りのゴミを拾って集めてゴミ置き場にまとめておきましょう。
茶色スライムも昨日から大活躍をしてくれているんだけど、やっぱりね、普通のスライムだから消化できるゴミの量は決まっている。
茶色スライムは午前中の蔦の山の処理で消化の限界は迎えているから、残りはゴミ置き場に。
真っ黒な汚水はレオがキレイに飲み干しているなぁ、レオに消化の限界はないのかな?
その後は、昨日オスカーさんと使ったお風呂とトイレ、寝室とキッチンの掃除をします。
ここは魔法を使わないでぼくの力で地道に箒とモップ、雑巾でお掃除するぞ!
レオが不思議そうにぼくを見るけど、魔法を使わなくてもぼくのスキル『器用貧乏』で隅々までキレイにできるはず。
それが終わったら、キッチンと寝室、トイレ、お風呂までの導線、廊下と階段を魔法を使ってキレイにしました。
【風魔法・バキューム】ってとっても便利! 四角く固められた埃や塵をゴミ置き場に捨てて、今日のお掃除は終了です。
ぼくはレオを抱っこして夕焼けを見ながら、外でオスカーさんの帰りを待つことにしました。
なんとなく、一人でお屋敷で帰りを待つのは寂しいので。
ぼくは昔の記憶がないから、ぼく自身のこともよく知らないけど、結構寂しがりだよね。えへへへ。
夕暮れの茜色に染まったオスカーさんの姿が見えてきた!
ぼくは腕を大きく左右に振りながら、「オスカーさん、おかえりなさーい!」と声を張る。
オスカーさんがぼくに気づいて小走りになる。
「クルトーッ。生活魔法の面白い話を聞いてきた……ぞ……。えっ……」
なんで、そこで足を止めてしまうのさ? オスカーさん、目も口もぱっかりと全開ですけど?