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外壁掃除でレオ大活躍

ぼくが使ったこともなければ見たこともない【水魔法初級・ジェットウォーター】に想像力を働かせていたとき、お屋敷の外観はひどいことになっていた。

もちろん、ぼくのスキルである【生活魔法・洗浄(ウォッシュ)】が発揮されているせいなんだけど、屋敷が泡で覆われたかと思えばすぐに真っ黒になって汚れた水がビシャビシャと下に滝のように落ちてくる。

そしてまた、屋敷がすっぽりと白いもこもこ泡に覆われて、黒くなり汚れた水が……の繰り返し。


「え?」


待って! 待て待て。

これって、ぼくが【生活魔法・洗浄(ウォッシュ)】を繰り返し行使していることになるよね?

あんなに魔力量が、魔力の枯渇が、て心配していたのに、本人の意志を無視してエンドレスに魔法が行使されるってぼくはどうしたらいいのさ。

不安から逃げるようにレオのポヨンとした体を抱きしめようとしたら、ぼくの手からスススとレオが逃げる。


「レオ?」


どうしたの? ぼくたちってば友達でしょ? 心の友でしょ? なんで逃げるのさ?

そんなぼくの心の声をさっくりと無視して、レオは泡まみれで黒い水を垂れ流すお屋敷の外壁へとぴょんぴょん跳ねて移動してしまった。


「レオ? どうしたの?」


なんで、わざわざ汚い方へ行くのかなと思って気が付いた。

レオは水色スライムだ……たぶん。


「そっか、汚れた水を飲みに行ったのか」


友情より食欲なのは寂しいけど、そこはスライムだもん、本能に忠実だよね。

でも、レオはお屋敷の周りに広がる汚水を取り込みに行ったのではなかった。

ぴょんとひと際大きく跳ねたかと思ったら、その口? あれ? スライムに口ってあるの?

とにかく、体からすごい勢いの水を吐き出した。

ビューッ、ビューッと。


「は?」


その細く吐き出した水の勢いで壁の一部が剥がれて飛んでいく。


「ああーっ、壊した!」


嘘でしょ? オスカーさんに「失敗してもいいぞ」とは言われていたけど、外壁壊しちゃったら大変だよ!


ぼくは慌ててレオのところまで走って近づいていく。

なのに、レオはぴょんと跳ねてはビューッと水を吐き出して、またまたぴょんと跳ねるを繰り返して、そしてとうとう……。


「……レオが壁を登っている」


昨日はキッチンの壁も登ることができずにずり下がってきたのに、今日はお屋敷の外壁を跳ねるように飛んで登っていく。

たぶんレオ自身の力量で壁登りをしているのではなく、あの口から噴射される水の勢いを活かして上へと登っているらしい。


ボタッ、ボタッと何かが上から落ちてくる。

ぼくは、恐る恐る足元に視線を落としてみた。


「うわーっ、壁が壊れ……じゃないな? これって……苔?」


レオが水噴射で壁から剥がし落としていたのは、いつから壁にこびりついていたのかわからない濃い緑色の苔だった。

ぼくは口をあんぐり開けたまま顔を上に向ける。

レオは外壁を登り切り、屋根の上で四方八方に水を噴射している。

お屋敷の壁が……。


「壁……白かったんだ……」


レオの水噴射が作り出したキレイな虹とお屋敷の白い壁と赤茶色の屋根がぼくの瞳に眩しく映った。









レオは水噴射の勢いに乗ってお屋敷をぐるりと周り、今はお掃除で出た汚水をゴクゴクッと飲んでいる。

あの水噴射の大量の水をレオがどこから調達していたのかも謎なら、その大量の汚水をどこに処理しているのかも謎です。


ぼくはスキルに無意識に使われた魔法以外は何もしていないのに、もう疲労困憊。

何度驚いて、大声で叫んだことか……。

知らなかった、肉体の疲弊よりも精神の疲労のほうがちょっと辛いって……。


あのあと、【生活魔法・洗浄(ウォッシュ)】と【水魔法初級・ミスト】で窓磨きも終わった。

お化け屋敷と見間違ったおどろおどろしい姿は消えて、白い壁に赤茶色の屋根がかわいいお貴族様のお屋敷に見える……こともない。


「……カーテンとか調度品も揃えないとね」


なにせ、元所有者の商人に家具一式持っていかれたからね。


こんなに大きなお屋敷の外壁をお掃除したのに、まだお昼を少し過ぎた時間だ。


「あとは、ご飯を食べてからかな」


正直、体は動かしていないからお腹は減ってないけど。


「レオーッ。ご飯を食べに……て、どこ行くんだよーっ」


汚水を飲み干したレオは食後の運動とばかりに、またまた外壁を上り始めた。

しかも、水噴射なしで自力でぴょんぴょんと軽快に登っていく。


「え? 何やってんの?」


レオは煙突の所まで跳ねて移動したあと、チョコチョコと煙突の周りを回って、またまた登り始めた。

そこでぼくは思いだしたのだ。

オプションで煙突掃除があったのを!


「でもぼくは選択していないぞ? もしかして……」


また勝手にレオが触手を伸ばしてバチンと半透明な画面を叩いてしまったのでは?


「レオーッ、煙突掃除なんていいから。戻っておいでー」


口に両手を当てて大声を出したけど、レオは呑気に触手を振って応えるだけだった。

そして、ポンッと上に跳ねると雫型の愛らしいフォルムを真四角に変えて煙突の中へと落ちていった。

落ちて……いった……。


「わーっ! レオーっ」


ぼくは慌ててお屋敷の中へと入っていったよ。

落ちたレオを助けなきゃ!


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