その捌・お前が欲しい
「わー、すごいね、驚いたよ……。」
パチパチと手を叩き、領主様は場違いな呑気な声を出した。
果たして本当に驚いているのやら。
「差し支えながら、取り繕わなくてもよろしいですよ?」
「……何が?」
一拍遅れて虚をつかれたような声を出した。これは素で出た言葉だろう。
「声、そして話し方です。」
領主様が演技をしていることについて指摘する。それを聞いて、今度は本当に心の底から驚いているようだった。
「…参ったな。気がつく人なんてお前が初めてだ。いつから気がついていた?」
芯のある低い声に変わった。
口調も軽い感じから重く皆を圧倒するようなものになる。
「最初から…です。」
最初に出会ったときに少し違和感を覚えた。微かではあるが少し無理な発声をしている…と。
「へぇ、やるじゃん。それで?お前の本当の名前は?」
本当の名前?
「暗殺者としての名前と本当の名前は正体がバレないようにするために偽名だったりしないのか?」
「いえ、私の名前は鈴蘭ですよ。私は叔父のせいで暗殺者としての名前と本名が同じになっちゃったんですよ。」
今あの頃に戻れるのなら全力で叔父を阻止したと思う。でもあの頃の私は幼かったのだ。
「……だとしてもなんで偽名を使って潜入しなかったんだ?」
疑問に思うのは当然だろう。今回はわざと偽名を使わなかったから。
「秘密です。」
暗殺者には沢山の秘密があるのだ。
「それよりこの叔父ですが、お願いしてもよろしいですか?」
気絶した叔父を指さす。
殺ってしまう価値もない。
ただ処理が面倒くさいので後のことは頼みたいんだけど。
「いや、構わないが………。」
煮えきらない返事だが、言質はとった。さっき秘密だと言ったのが不服なのだろう。
そして領主様に両腕をつきだす。
「いや、え?」
困惑しているようだ。……なぜ?
「私のことは煮るなり焼くなり好きにしてください。」
「いや、なんで?」
なぜ、疑問におもうのだろうか?
「私は貴方の命を狙った暗殺者ですよ?」
ここで捕まえるなりなんなりしておかないと駄目だろう。
…捕まった後、私の処分はどうなるだろうか?
肉刑は…腕一本くらいはいいけどそれ以上取られると何もできなくなってしまうからな、重すぎるのはやめてほしい。それをやられるくらいなら死刑のほうがマシだろう。
色々お願いできる立場じゃないけど。
「……なんか誤解してるみたいだが?別に俺はお前を捕まえるつもりなんてない。」
え?
「むしろこの目でお前の実力を見て、改めてお前が欲しいと思った。」
いたずらっぽく笑う。
「詳しいことはよく分からんが、お前には主が必要なんだろう?俺がなろう。かわりに俺のために動いてくれ。」
はぁ?
「いや、ですが私は……」
その続きは言わせてもらえなかった。
「それにお前は暗に俺を主として認めてくれると言ってたじゃないか?」
まぁ確かに。この人面白そうだし、主になったら私を上手く使ってくれそうではある。
「じゃあこれからよろしくな、鈴蘭。」
次の章はまたいつか投稿します。
1月のどこかで再開できればいいですが、なんとも言えないので…お楽しみに!