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暗躍する侍女(仮)の物語。  作者: はこ
序章・どうしてこういうことになったのか
7/8

その漆・これが私の仕事。

「今日…………今日ですか。」


今日は新月。私がここに来てもう一ヶ月経った。

頼りになる月明かりはない。空にはきらきらと瞬く星々があるのみだ。


こんな日は私達にとってうってつけの日。


いつもの服に着替えて髪の毛を高い位置で縛る。

そして自分の相棒(かたな)を持ち、自室の四階の窓から飛び降りた。




ここは本館の図書室。

瑠威はいつものように本を読んでいた。暗いので、ランプを側に置いて。


明るい満月の夜なんかは月明かりで本を読むこともあるのだが、今日はそういうわけにはいかない。

なにせ暗すぎる。今日はあいにくの新月だ。


本当は夜のこの景色を阻害したくないからランプは使いたくないんだけど。


そんなことを考えながら昨日からの読みかけの本を読んでいく。そのペースは一定で、子守唄のようにゆっくりだ。もっと早く読むこともできるが瑠威はこの時間をゆっくりと楽しみたかった。


そうして暫くした後。


「なにか御用?侵入者さん(お客人)?」


本から顔を上げず、そう声を発した。


「ちっ。勘の良い餓鬼えものは嫌いだね。いつから気づいてたんだ?」


部屋の暗闇から男が足音を立てずに姿を現した。いかにも悪役顔である。


()()()()…かなー。」


そして本をぱたんと閉じて侵入者を見据える。

どうやら本をきりの良いところまで読み終えたらしい。


「俺からも質問いいですかー?なんで俺がここに居ることが分かったの?」


侵入者は喉の奥の方からくつくつと笑った。馬鹿にしたような笑い方だった。


「俺は本来、獲物を前にしたらすぐ狩っちまうタイプなんだが……いいだろう。今日は気分が乗っている。答え合わせを特別にしてやろう。」


そして意気揚々と喋り出す。


「お前んとこの侍女に俺の忠実な下僕がいたのさ。そいつがお前についての情報を教えてくれたよ。お陰で手間が省けた。」


そして瑠威の後ろにある窓をちらりと見て「ああ、やっと来たか。」と呟いた。


後ろを振り返る。

開け放たれた窓…そこからこちらに入ってこようとする人がいた。


緋色の袴を着て、普段は下ろしている髪の毛を高い位置で結っている。そして顔には仮面が。

背景の星も相まって…まるで精霊の化身のようだった。いや、本当は死神なのかもしれないが。


「一ヶ月ぶりだな。鈴蘭。」


そう侵入者は声をかけた。



良かったのか、悪かったのか。まだ領主様は生きていた。

そして目の前には叔父(ろくでなし)がいる。


「お久しぶりです。叔父様。」


計画どおりにこの屋敷に侵入したようだ。


「こいつが俺の姪であり、暗殺者の鈴蘭だ。こいつの名前を聞いたときに、お前はこいつが俺のスパイなんじゃないかって疑うべきだった。貴族のお坊ちゃんは知らないかね?“鈴蘭”っていう暗殺者の名前。」


伯父ろくでなしは話を続ける。


「鈴蘭って花には毒がある。見てくれに騙されちゃいけねぇ。こいつと同じだ。ははっ、本当にこいつにぴったりな名前だろう?」


そしていつものように私を嘲笑った。母がつけてくれた名前を嘲笑った。


「鈴蘭は暗殺者だったんだね。」

「はい。騙していてすいません。」


暗殺業ももう何年やっているか分からない。慣れたものだ。ただこんなにも言葉を交わしていた相手を殺すのは初めてだと、思う。


「俺達は依頼を受け、お前を殺しに来た暗殺者(しにがみ)だ。」


叔父(ろくでなし)は驚いただろうとでも言いたげである。しかし領主様は「ふーん。」と、くだらない、どうでもいいとでも言うように返事を返しただけだった。


……普通の人ならここで「命だけは助けてくれ」とか命乞いをするんだけど。

私には領主様が新鮮に映った。


「もっと驚いてくれたほうがこっちとしては楽しかったんだが。鈴蘭!俺が殺る。お前は手出しをするなよ。」


手柄を横取りするなと釘を刺された。


派手に殺してやろうと叔父(ろくでなし)は息巻き、ナイフを取り出した。刃がランプの光でキラリと光る。獲物を逃さない肉食動物のように。


叔父(ろくでなし)が領主様にに向かって狙いを定め、斬りかかった。

それと同時に私も相棒(かたな)を抜く。


「何をしているんだ!!」


叔父(ろくでなし)は私に向かって叫んだ。それもそうだろう。私は叔父(ろくでなし)のナイフを領主様を守るように受けていたのだから。


「何をしているんだ!!」


再度叫んだ。あまり近くで叫ばないでほしい。耳が痛い。

それに―――


“暗殺の心得

・静かにかつ短時間で終わらせるべし”


叔父(ろくでなし)も焼きがまわったものである。こんなんでは暗殺どうのこうのの前に他の人に気づかれてしまうだろうに。


「何をしているか……そうですね。見ての通りだと思いますが。」


叔父(ろくでなし)を見据える。


「おい!お前の主は俺だろう。前みたいになりなくないなら、言うことを聞け。それに約束が違えるのか!?」


お前がそれを言うか?と半ば呆れる。

幾つもの約束を反故にしてきただろうに。


「残念ながら私は約束を破ってはいません。言いましたよね?美学(ルール)に則り、善処すると。それに叔父様は知っているでしょう。私の美学(ルール)を。」


“暗殺の心得

・己の美学(ルール)に則り、殺しを行うべし”


叔父(ろくでなし)は息を呑んだ。


「私の美学(ルール)は“気に入った相手を主とし、その主に誠心誠意仕える”ですよ。今までは貴方が仮の主でしたが、もうそれも終わりです。知らないかもしれませんが、私だって感情があるのですよ。いつまでも貴方の操り人形なんてまっぴらごめんです。」


私達のような暗殺者には“暗殺者の心得”というものが存在している。

そんな物が存在している理由は単純明快。

この世の秩序を保つため。暗殺者は人を殺すが殺人鬼とは違うという差別化をはかるためでもある。

人を殺しているという点では同じかもしれないが、暗殺者は自分の欲のために殺しているわけではない。誰かの役に立っている、もしくはきっとこの世のためになっているのだという気持ちを持ってやっている。存外暗殺者というものはプライドが高い生き物なのだ。

それに暗殺者という仕事は一回でも失敗したら次の仕事が得られにくくなる。それだけで済めば安いもんで、下手すると普通に殺されるのだ。


だからそこの“心得”。

そしてその中にある“己の美学(ルール)に則り、殺しを行うべし”という心得。

勿論他の心得と同様に意味なく存在しているわけではない。


どうしてこんな美学(ルール)があるのか。


いくら殺しているのは依頼が来ていたからだとしても、我々は人間であり心を持っている。だから依頼に従って、人を殺す。そんなことをずっと続けていたらどうなるのか?

だんだん心が壊れていくに決まっている。

そしてその過程で理由もなく殺すただの殺人鬼と化してしまう人もいるだろう。

それを防ぐためにこの美学(ルール)をそれぞれが持っている。

…まぁ暗殺者の適性が無ければ自分の美学(ルール)を持っていたとしても殺人鬼になり得るんだけど。


私には主がいなかった。

いないからこそ仕方なく叔父(ろくでなし)に仮の主になってもらっていた。

全くもって主として認めてはいなかったから無理矢理そうだと思いこんでいたわけだけど、いないよりはいい。


過去の自分のように殺人鬼になりかけたりするようなことは無くなったのだから。


でもそんなふうにしなくてはいけない日も今日で終わりだ。


「叔父様、では遠慮なく。」


力の差は歴然である。

叔父(ろくでなし)は私が下僕となってから実戦なんてほとんどやっていなかった。

たまにやっていたとしても最後の仕上げ………要するにとどめを刺すところしかやっていなかった。


それなりに昔は腕が立ったらしが、こうも人任せにしすぎていると技術というものは衰えていく。


相棒(かたな)を向けるか迷ったが聞きたい情報があるし、やめておこう。


容赦なく首に手刀を打ち込み、気絶させた。

次の更新は明日です。

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