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暗躍する侍女(仮)の物語。  作者: はこ
序章・どうしてこういうことになったのか
6/8

その陸・私が任された仕事

行きたくなかったけど次の日から私は本館に出向くことになった。


正直、物凄く汚い。


「本当にすいません。こんなふうになるまで放置するつもりはなかったのですが……。」


と松風さんに謝られた。侍女の仕事っていえばこういう汚いところを綺麗に掃除することだと思うので、別に謝る必要はないと思う。

律儀な人だ。


掃除の基本は上から。まずランプの埃を落とし、窓にとりかかる。その後に床。箒で掃いた後に雑巾がけをする。

細々したところまでやっていると一日では終わらないのでとりあえず今日は簡単に掃除をする。ピカピカにはならないけど今よりは断然住みやすくなるだろう。ピカピカにするのは明日以降だ。

雑巾は若菜にお願いしていらない布きれを使い、作ってもらった。本当は私が作れたら良かったんだけど……ちょっと今の私にはハードルが高いから。


そして綺麗だった雑巾が真っ黒になった。


「すいません、至急執務室もお願いします。」


なんとなく一段落すると、松風さんにそう言われた。

すぐに執務室へ向かう。


「鈴蘭です。失礼します。」


三回ノックをしたあとにそう言うと、暫くしてから「どーぞ。」と返事があった。

遠慮なく扉を開けて中に入る。


そこではこの屋敷の主である瑠威がペンを持ち、仕事をしていた。

相変わらず机の上には沢山の書類が積み上げられている。そんな沢山の書類を黒縁の眼鏡をかけながら、かなりのスピードで捌いていく。瑠璃色の目は真剣そのものだ。


よくこんなのを一人でこなせるな。


床に落ちている紙は触っていいか分からないので(機密事項も入っているらしいし)とりあえずそれを後回しにして他のところから掃除を始めた。


廊下と同じように上から掃除をしていく。この部屋はとてもシンプルだ。必要最低限の家具しか置いてない。まぁ、書類が床に散らばってはいるが。花の一つでもいいから飾ればいいのに。

権威を示したいからなのか、自分が金持ちなのを自慢したいからなのか、部屋に高そうな絵画とか置物をセンスなく並べているような貴族よりは全然ましだろうけど。でもちょっと殺風景な気もする。

今度花を勝手に飾ってみようか?……いや、松風さんには許可をとろう。流石に無断はまずいだろう。


あとは床、か。


書類を勝手に触っていいのか分からないけど領主様に声をかけるのは申し訳ない。集中しているようだし。


まぁ何も言われてないわけだし、勝手に片付けていいんだろう。そういうことにしておこう。


それでも念のために紙を裏返しにし、できるだけ見ないように拾い集める。

でも超人ではないし、完全に見ないということはできなかった。


「…………!!」


これは……。

ちらりと見えた紙には『飢餓対策案』や『貧民街対策案』などと書かれていた。

そして黒で書かれた文字の上から、赤ペンで書き込みがされている。もっとこういうふうにしたほうがいいとか、ここにお金を使うよりこっちにお金を使ったほうが効率がいいなど細かいことが。

悪いことだと思いつつ、今まで拾った紙全てを表にしてざっくりと目を通す。すると全てに書き込みがされているのだ。


テーブルの領主様をちらりと盗み見る。


筆跡が同じ。

この量を、一人で…………?


一体何物だ、この人は。

…あんまり考えちゃ駄目だ。これは本当に駄目な気がする。


急いで落ちている紙を集めて仕事を終わらせた。



その夜、いつものように図書室に向かった。

領主様だと知ってから始めて行く図書室。いるだろうか?…まぁいるだろうな。

行っていいもんかとも少し悩むけど、返さなきゃいけない本があるから気にせず行くことにする。


思ったとおり、いつものようにそこにいた。


そして初めて出会ったときより弱まった月の光をいつものように受けて髪の毛がきらきらと光っていた。


「来ないかと思ったよ。」

「来ないほうが良かったですか?」

「いやそういうわけじゃないよ。もう来てくれないかもしれないなーと思って。」


寂しそうに笑った。


「来てくれて良かった。」


……悲しい思いをして来たのかもしれない。

辛い思いをしてきたのかもしれない。

色々な思いを抱えてきたんだろうな。


私と同い年くらいに見えるこの人はあんな量の、しかもかなり重要そうな仕事をしている。

次の更新は木曜日です。

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