その参・不思議な人に出会う
この新しい仕事に慣れてきたある日の夜。
今現在の時刻は二十時。
ご飯を食べ終わり、後は一応定められている消灯時間の二十二時まで暇だ。
ならば図書室に行こう。若菜に場所を教えてもらった日から図書室に行くのが日課になっており、普段は昼間の休憩中に図書室に行っていたが、今日は忙しくて行けなかった。
でもその代わりいつもより仕事が終わる時間が早かった。……この時間を有効活用しない手はない。
若菜も誘ったら来るだろうか?そう思ったがどうやら今はお風呂に入っているようだ。別に出てくるまで待って一緒に図書室に行たっていいんだけど、彼女のお風呂は本当に長い。
最短一時間。最長三時間。
………待ってたら図書室にいけなくなる気がする。今日は一人で行こう。
◇
図書室は本館の四階にある。広い。本当に広い。
図書室っていうより図書館って言った方がいいのでは?という広さだ。
町にも図書館があって、そこもそれなりの広さがあった。全ての本を読みつくすのに数十年はかかるだろう、生きている間に読めるだろうか、なんて考えていたがそれの比ではない。
夜の図書室は昼間と全然雰囲気が違った。
月の光があるから目が慣れればそれなりに周りが見えるが、昼間と違って本を探すのに苦労しそうだ。
自室から持ってきたランプを片手に本を探す。
お目当ての本を見つけた。
若菜がお風呂から出るのを待ちながら、部屋で読もうか?
そんなことを考えながらふと後ろを振り返ってみた。月が美しい。今日は満月だったようだ。
そしてその満月の傍らに、人がいた。まさかこんな時間に先客がいるとは。
月を背に本を読んでいるその人はなぜか神秘的で絵の中から出てきたような、そんな雰囲気があった。
さらさらと流れる少し長めの銀髪。月の光をうけ、宝石のようにきらきらと光っている。伏せられた睫毛は長く、少しだけ瑠璃色が覗いている。
あそこだけ別世界のようだ。
どうするべきだろうか、声をかけるべきだろうかと考えていると本を読んでいる人物が顔を上げた。
二つの深い瑠璃色の目がこちらを見つめる。
「………………??君は?」
ここに人がいることに驚いているようだ。男にしては少し高めで緩く気の抜けた声。なんだか声に引っかかりを覚えた。
「私は鈴蘭と申します。先日このお屋敷の侍女として仮採用させていただきました。」
軽く自己紹介をしておく。
「ふーん、そーなんだ。何処かですれ違うこともあるだろーし、よろしくねー。」
この人の間延びしている声を聞いていると気が抜けそうな感じがする。毒気を抜かれるような感じ?
「月の光で本を読むのが好きなんだー。ほら灯りをつけると星とか見づらくなっちゃうでしょ?」目の前の人はそう言って笑った。だから図書室がこんなに暗かったのか。毎日毎日やっていたら目が悪くなるかもしれないが、たまになら少し気分転換になるし良いかもしれない。
さらに私が持っている本を見ながら「読んでいけば?」と言われたのでお言葉に甘えて本を読んでいくことにした。普段は図書室で本を読んでいくなんてことはしないが、若菜がお風呂から出てくるのはもう少し時間がかかるだろうし、いいか。
「薬草に興味あるの?」
そう聞かれた。私が開いていたのは薬草について書かれた本だった。
「そうですね、それなりには。薬草も種類によっては身近にあるものもありますし、それになにかあったときに役に立ちますから。」
実際に薬草に助けられたこともある。私にはお金がなかったから。
「気が向いたらまたここで喋ろうーよ。それなりに楽しかったからさ。」
帰り際にそう言われた。断る理由もないだろうと、その後何回か図書室に通った。
次回の更新は日曜日です。