その壱・起承転結の『起』
お読み下さり、ありがとうございます!
色々な設定がガバガバですが、温かい目で見ていただけると嬉しいです。また誤字脱字が多いかと思われます。もしよろしければ報告の方をよろしくお願いします。
1月13日追記:
訂正 伯父→叔父
「はぁ……。」
空を見上げてため息を一つついた。私の気持ちと正反対に今日の空は青く澄んでいる。
私は今日、4年間もお世話になったお店を辞めた。お店の人もそのお店に来るお客さんもこんな私に優しくしてくれていたし、なんら不満はなかった。だから辞めたくはなかったというのに。
いや、違う。辞めたのではなく、辞めさせられたのだ。叔父によって。
いわく、「もっと時給のいい場所を見つけたからそこで働いて来い。もう履歴書は送っておいた、有り難く思え。ああ、そうだ。採用されるためには面接があるんだが、それに落ちた場合お前の飯は一週間無しだ。」
急に辞めさせておいて、ふざけるのも大概にしろ。
いわく、「俺が養ってやってるんだからこれは決定事項で、命令だ。」
いや、養ってやってるのはこっちだ。
だって、ここで暮らすようになってから叔父が一度でも働いて、家にお金を持ってきたところを見たことがない。
普段は賭博しているか、花街に行くか、荒屋で寝ているかのどれかである。養ってると大層な口を開いているが、一体いつ仕事をしているというんだ?
それに私が働いているとは言っても、16歳が働いて稼げる賃金なんてたかが知れている。だからこそ、少なくとも私は質素な生活を送っているというのに。無駄にお金を使いやがって。
……そういえば花街なんて行くお金どうやって用意してるんだ?あの叔父。花街に行くとなると私の一月の給料の何倍も必要になる。
……これは考えちゃ駄目なやつだ。ろくなことにならない。
そんなわけで私は今、豪邸の門の前に立っている。ここは私の住んでいる町の端っこの少し高い山の上。この町を治める領主様が住んでいるらしい。町から少しアクセスが悪いこともあってか、領主様の姿を見たことがある町の人はいないと聞く。噂では大男だとか、化け物だとか、はたまた人を魅了できるほどのイケメンだとか。
審議は定かではない。
そんな領主様が今回初めて侍女を募集した。
雇い主が領主様なこともあってか、とても高時給。お金がほしい叔父はこれ幸いと私に侍女として働けというわけだ。
無茶振りの限度を超えている。
教養のない私がお偉いさんの侍女をやれなんてとうてい無理な話だ。
落ちるに決まっている。
あーあ、一週間のご飯はどうしようか?
まー、どうにかなるか……………。これまでもどうにかしてきたし。
重い足取りで門をくぐった。
◇
中はとても広く広大な土地が広がっている。流石は領主様の屋敷だ。
「どのようなご要件でいらっしゃったのでしょうか?」
どここらともなく現れた執事?のような人に声をかけられた。面接に来た旨を伝えると、
「さようでございましたか。では別館で行いますのでこちらへ。」
そのまま別館まで案内してくれた。話によると、どうやら私が最後の侍女希望者だったらしい。もう面接が始まるぎりぎりの時間だからだろう。もうちょっと早く来ればよかっただろうか。
案内されるまま、中に入った。
別館とはいえ、領主が所有しているだけあると納得できるような立派な建物だ。でもだからといって派手に飾り付けられたりはされておらず、厳かな雰囲気で私的にはかなり好みである。
中を見回すと、ロビーには何人もの女の子がいた。今回の侍女希望者だろう。自分も含めええーっと、66人…だな。
さて、この中から採用されるのは何人だろうか?
よくて10人程度か?
この屋敷はとても広いのにあまり侍女などの使用人が多くないように感じる。だとすると、それくらいが妥当な数だとは思うんだけど。
気がつくと寡黙そうな男の人が奥から出てきた。
「これで全員ですかね。じゃあ面接を始めるので名前を呼ばれたら、一人ずつ来てください。」
そう言うと一人の名前を呼んで奥へ引っ込んでいった。
あの人、見た目的には30代前半くらいに見えた。いや、もうちょっと若いか?そしてどうやら、かなり良さそうな、いわば高級そうな服を来ているみたいだ。そこから考えて、多分あの人はこの屋敷でかなり重要な役職についているのではないだろうか?若そうに見えて凄いな。
いや、でも……。そんなふうに見える人がたかが侍女の面接を担当するのか?こういうのは執事長とか侍女長とかがやりそうなもんだけど。侍女なんて重要な役職じゃないし。
「あの男の人、ちょっと素敵じゃない?」
「そうね、そうね!それにここには………」
なとどいう女の子達の会話を軽く聞き流したり、色々考えながら順番を待つ。見たところ女の子達は町の商人だったり、貴族の分家だったり、かなりいいところのお嬢様が多いようだ。
正直、教養やマナーをあまり知らない私は太刀打ちできる気がしない。領主様はもちろん貴族である。だから貴族の教養やマナーを知らないというのは致命的なのではないだろうか。
そして私はそう時間が経たないうちに名前を呼ばれた。
◇
面接の部屋は緊張感が溢れていた。そりゃそうか。
「貴方のお名前は?」「今まで何をやっていたのですか?」「字は読み書きできますか?」「特技やできることは何ですか?」というふうに面接は進んでいく。
教養がないとはいえ、字の読み書きくらいはできる。
できたほうがいつか役に立つし、覚えておいて困ることはないと、昨日まで働いていたお店の主人に教えてもらったのだ。本当にお店の主人には感謝しないといけない。
そして特技はないが、侍女の仕事で必要そうなこと……そうだなぁ、掃除・洗濯・料理。この3つは必要最低限ならできるつもりだ。
裁縫は………お粗末なもので良ければ。
そんな感じのことを淡々と答えていく。
こんなんで本当に大丈夫なんだろうか?
「ええと、事前情報となんら差異はないですし……大丈夫でしょうね。」
目の前の男の人はそんなことを呟いた。
……事前情報?
「あー、悪く思わないでください。一応主はここの領主なので変な人を侍女として雇うわけにはいかないんです。なので面接を受けていただく方には、全員事前調査をしていまして。」
疑問を口に出したつもりはなかったのだが、顔にでていたのだろう。丁寧に答えてくれた。
なるほど。要するにスパイみたいに、その人の普段の様子や周囲からの印象などを調査していたということか。
「その人が面接で言っていたことが全て正しいとは限りませんから。その裏付けも兼ねているのですよ……ああ、そうだ。一応聞きますがここへの志望動機はなんですか?」
……これは叔父とのやり取りも、知っているかもしれないな。別に嘘を付く必要もないし。
そう思い、かいつまんで志望動機を話した。
◇
一週間後―――
一週間後に屋敷まで来いとのことだったので、私は屋敷の門の前に立っている。
「先週に引き続きようそこおいでくださいました。」
一週間前と同じ執事?のような人にそう声をかけられ、面接を行った部屋に案内された。66人もいたら二次審査とかありそうだなと思っていたが予想が外れた。先週いた女の子達が一人もいない。
「失礼します。」
ノックが3回聞こえた後に声が聞こえた。この声は……先週の面接官の男の人の声だろう。
予想通りの人が扉を開けて部屋に入ってくる。そして私の向かい側に座った。
「私の名前は松風と申します。ここの主付きの従者を務めております。」
主付きの従者、か。上の方の役職だろうと思っていたがそこまで上だったとは……。
「本当は二次審査を行う予定だったのですが、一次審査を通ったのが貴方だけでした。」
なるほど。どうりで先週見かけた女の子達が誰一人としていないのか。
「なので……とりあえず採用とさせていただきます。能力も申し分ないようですし。これから我々の仲間としてよろしくお願いしますね。」
握手を求められた。一見寡黙そうに見えるがわりと気さくな人なのかもしれない。
「改めて私の名前は鈴蘭です。こちらこそこれからよろしくお願いいたします。」
次の更新は日曜日です。